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黒の主  作者: 沙々音 凛
第六章:冒険者の章四
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31・広い食堂で2

「まぁ、恩を振りかざして利用するだけして使い捨てる、という事はないから安心しろ」

「う……うん」


 それで余計に顔をひきつらせた彼に、セイネリアは今度は笑って言ってやる。


「狩人としてのあんたの腕を俺は買ってる。信用も出来る男だとも思ってる。だから早い話、今後俺が仕事を受けてあんたに声を掛ける事があった時は出来るだけ付き合え、という話だ」


 それでエーリジャも破顔して安堵の息を吐いた。セイネリアはそれに声を出して笑う。今度はエーリジャも笑った。


「君の腕と頭の回転の良さはこちらも今回大いに納得出来たからね、君との仕事はこちらもぜひと望むところだよ。……けど、ちょっと心臓には悪そうだ」

「そうだな、だから、失敗したら俺を見捨てて逃げる準備はいつもしておけ」


 途端、エーリジャの顔から笑みが消えた。


「逃げていいのかい? 組んだからには助け合うのは普通じゃないのかな?」

「助けられる状況ならあんたは黙ってても助けにくるだろ。そうじゃない場合の話だ、失敗した俺を未練がましくどうにかしようとは思わなくていい、自業自得だと見捨ててさっさと逃げろ。俺はいつでも失敗したら死ぬ覚悟は出来てる、助けなかったと恨んだりはしないし、自分の覚悟に他の人間を巻き込むつもりもない」


 エーリジャはそこで苦笑すると、悲しそうに眉を寄せた。

 カリンも何かいいたそうな顔でこちらを見てきたが、セイネリアが彼女を見れば何も言わず下を向いた。


「優しいのか、自分勝手なのか分からない人間だね、君は……けど、哀しい人間だ」

「俺の事はどこまでも身勝手で我儘な人間だと思っていればいいさ」


 部屋が一瞬、静まり返る。だが黙って食事を続けるセイネリアを見て、カリンも、エーリジャも止まっていた手を動かして食事を再開した。


「うん、流石に貴族様はいいもの食べてるね、これは美味いや」

「卵に砂糖と小麦を入れて蒸したものだそうです、上に掛かっているのはオレンジのジャムだとか」

「成程ね、甘くて美味しくて……これは子供が食べたら泣いて喜びそうだ」

「私も美味しいと思ったからどう作られているのか聞いたのです」


 セイネリアが黙った所為かエーリジャが食べながら殊更明るく話しだして、おそらくそれを察してカリンも明るく返している。

 そんな光景を見てもセイネリアとしては別に心が動く事もなく、自分になどを気にする彼らの気持ちが分からないと思う。


 朝というには昼に近くなったこの時間は、窓からの光が燦燦と部屋にふりそそぎ卓上の食べ物達を輝かせている。実際料理内容も平民からしたら光って見えてもおかしくないくらいだが、セイネリアはそれを食べて美味いとは思っても感動するような事はなかった。食い物は美味いにこしたことはないがいざとなれば食えるだけでなんでもいい、酒も女も良いにこしたことがはないがあればなんでもいいとも言える。そう考えればつまらない人間だと自分の事を思わなくもない。


――哀しい人間か、まぁそう見えても当然だろうな。


 少なくとも自分は仕事の成功にある程度の満足感を感じてはいても、喜んで騒ぐ人間の気持ちは分からない。美味い物を食って上機嫌になる連中の気持ちも分からない。エーリジャのように他人に向けて悲しそうな顔をするその気持ちが分からない。心の中に闇のような空洞が広がっていて、感情がそこに消えていっている事を知っている。

 ただ、それでも、望むものはある。

 渇望して、掴みたいと願うものはある。

 何もないからこそ何か確かなものが欲しいと思う。一瞬でもいいから心の空洞を埋めてみたいと願う。

 そう思うから生きて行ける、今やれるだけの事をして力を掴もうとする。何も掴めず終わったとしても、もともと何も持たない自分に惜しむ物などないのだから。



仲間追加、なんですけど……次回はちょっと……。

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