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黒の主  作者: 沙々音 凛
第六章:冒険者の章四
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27・情

――それでもどうにか上手く収めた方か。ベストではないが贅沢を言っても仕方ない。


 会場から聞こえる、自分たちに危険が迫っていたという状況を露ほども知らないのんきな音楽に苦笑しながら、セイネリアは倒れている死体を面倒そうに持ち上げると低い植木が並んでいる奥へと放り込んだ。手伝おうとしたカリンには何か落ちていないか探すように言って、もう一体も同じ場所に隠した。

 これをさっさとワネル家の警備に渡してしまえれば楽ではあるが、とりあえずディンゼロ卿に渡すなり確認してからの方がいいだろうとセイネリアは判断していた。ワネル家側には出来れば自分の素性を晒したくなかったし、今回の件をディンゼロ卿がどう収める気かまだ分からないというのが大きかった。少なくともワネル家には事情をある程度は明かさなくてはならないだろうから、ディンゼロ卿としてもどう話を持って行くか判断が難しいところだろう。


 それでもこの結果ならどうにか出来なくはないだろうとそう考えて、頭を切り替える事にしたセイネリアは、後ろで待っていたカリンに向き直った。


「その女暗殺者が持っていた短剣だけ、拾っておきました」


 セイネリアの顔を見て即、カリンは背筋を伸ばして報告してきた。 


「あぁ、なら持って帰ってワラントの婆さんに出所を調べられるか聞いてみてくれ」

「はいっ」


 カリンの返事とこちらを見てくる瞳がまだ緊張を纏っているのを感じて、セイネリアはそこで笑ってみせた。


「お前が無事でよかった、いい働きだったぞ」


 言って彼女の頭に手を置けば、カリンはそこで表情を崩すと嬉しそうに笑った。こうしてよく笑うようになったカリンは最初の出会いの時からは大分印象が変わって見えた。笑えば歳相応の娘に見える彼女に、セイネリアは言ってみる。


「恐らくこれ以上は問題も起こらないだろう、お前は会場に戻ってもいいぞ。そんな恰好でこういうところに来る事もそうそうないだろうしな、最後にどこぞのお節介貴族とでも一度踊ってくるのもいい経験になるだろ」


 言えば彼女はその黒い瞳を大きく見開いて、それから困ったように眉を寄せた。


「いえ、いいです。それに私、そもそも踊れません」


 そのカリンの様子に、セイネリアの方が自分自身に少しだけ驚いた。どうにも――アカネのイメージがあった所為か、自分はカリンも踊れるだろうと思い込んでしまっていたらしい。


「あぁ……そうか、そうだな」


 思い出せば確かにアカネも言っていた、ボーセリングの犬としてではなく、ナスロウ卿に教わったと。なのに何故カリンが踊れる気がしていたのか――その理由は多分、自分がどこかでカリンにアカネを重ねて見ていた部分があったからだろう。

 らしくない、と我ながら思うもののナスロウ卿とアカネに関しては悔いる部分が残っている事は自覚していた。二人共、本人が望んだ最期ではあった筈だが、どうしても後味が悪すぎて他の手はなかったのかという思いは残った。カリンを部下にしようと思ったのもその気分の延長線上にあった事は否定できない。

 思ったより自分の中には情と言えるモノはあるのかもしれない――考えながら、セイネリアは不思議そうな顔でこちらを見ているカリンに言う。


「踊れないなら、俺が教えてやろうか?」


 カリンはまた瞳を丸くした。


「踊れるのですか?」

「あぁ、まぁ得意ではないが一応な。前に俺を騎士にしようとしたジジイにこれも騎士として必要だと無理矢理覚えさせられた」


 カリンが笑う。クスクスと楽しそうに笑った彼女は、それからちょっとこちらを伺うように見上げてきて遠慮がちに言って来た。


「あの、教えて下さるのでしたら……その、またこういう仕事があった時の為に、覚えておきたい……です」


 セイネリアは彼女に手を差し出した。そうしてそっと手を出してきたカリンの手を取ると、彼女に足の置き方を教えながらダンスを始める。基礎の身体能力が高いカリンは思ったよりもすぐカタチにはなって、やがて会場から流れてくる音楽に合わせて一応は踊る事が出来た。


 ただセイネリアとしては……思った以上にあの老騎士と不幸な女の事を自分は引きずっていたらしいと、あまりの自分のらしくなさに驚くと同時に自嘲する事になったのだが。


死体を隠した傍でダンス……と書くとシュールですね。……っていうか悪役ぽい。

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