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黒の主  作者: 沙々音 凛
第六章:冒険者の章四
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23・拍手と歓声

 塔のような大ランプに再び火が灯った。

 周囲が明るくなったのを確認して、エーリジャは矢を放つのをやめ、持っていた矢を矢筒に戻した。光石のついた矢の残りは2本、ちょっと危なかったなと彼は思う。

 明るくなった事で光のショーが終わったと思った人々が、エーリジャに向けて盛大過ぎる拍手の雨を降らせる。彼はそれを受けて皆にお辞儀をしてみせた。狙い通り、観客である貴族達は今のも最初から予定されていた余興の一つだと認識していて、裏で起こっていた事にはまるで気付いていないようだった。暗闇になった間に問題を起こすという敵の狙いは、少なくとも参加者達に向けては穏便に、無事阻止出来たと言って良さそうだ。


 興奮した人々の称賛の声と拍手はなかなか収まる事がなく、エーリジャは何度もお辞儀をして応えなければならなかった。ただ、光石のショーの印象が強烈でその前の弓の名手ショーは忘れられてそうだけど……というのはちょっとだけ寂しかったが、無事問題が解決したならよいかと彼は思う。


 だがそうして彼が人々の歓声に応えていると、当然といえば当然ではあるのだが紹介者であるノウスラー卿がエーリジャのもとへやってきた。

 エーリジャへの拍手は、自然と彼を連れてきたノウスラー卿へ送られる。盛大な拍手を受けて表面上は笑顔でやってくるノウスラー卿だが、ちらとこちらに向けた顔が憎々し気に睨んでくるのには思わず苦笑する。

 そうして予想通り、満面の笑みでこちらの前に来て皆の拍手に応えたノウスラー卿は、一歩こちらに向かって下がると小声で言って来た。


「あの光る矢はどういうつもりだ?」


 エーリジャは澄まして答える。


「ちょっとしたサービスですよ」

「何がサービスだ、いらぬ事をしおって」

「そうですか、大好評のようですが。こんなに好評なら、貴方の株も上がるというものでしょう?」


 エーリジャは笑う。ノウスラー卿は舌うちする。

 この反応はセイネリアが言っていた通りだから余計に笑ってしまいたくなる。


「どちらにせよ、お前の仕事の評価を下すのは私だ」


 それはおそらくこちらに対しての嫌がらせなのだろうが、それもまたセイネリアが予想してきた事だから吹き出しそうになったのを堪えてエーリジャは出来る限り冷静な声で言った。


「構いませんよ、お好きなように。あぁそうだ、後でディンゼロ卿からお話があるそうなので、私がお部屋までご案内させていただきますね」


 そこで言葉を詰まらせたノウスラー卿のその顔を想像すると面白過ぎたが、ここは冷静に言わないと『実はこちらは全部知っていたんだぞ』感が出ないから我慢しなくてはならない。


「ディンゼロ、卿、だと……なぜ……」


 呟きは小さく、人々の歓声と拍手に溶けかけていたが、耳がいいエーリジャにはしっかり聞こえた。


「おや、お分かりになりませんか? グクーネス卿も呼ばれている筈ですのでお二人で相談されれば分かるのではないでしょうか?」

「グクーネズ、奴も、か……」


 流石にいくら馬鹿でも、グクーネズ卿の名も出せば呼ばれる理由は察しがつくだろう。以後黙って何か考え込んでいるらしい雇い主の貴族の背中は明らかに力なく丸められていて、先ほどの偉そうな空気など何処かへ飛んでいってしまっていた。

 その様子を見ただけけで、抑えようと思っていても口元が緩むのは仕方ない。いや本当にどこからどこまでセイネリアが言う通りの反応で、やっぱり彼は大物だと、エーリジャは今度はノウスラー卿に向けてではなく彼に頼った自分の判断に対して満足げな笑みを浮かべた。



次はまたカリンのターン。

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