21・嫌な予感
オレンジ色、青色、赤色、黄色。次々と辺りは違う色の光に包まれて暗闇を照らし、人々を笑顔にしていく。
あぁ、綺麗だなぁ、とのんびり考えながらも、赤毛の狩人エーリジャは空に向けて矢を撃っていた。
この矢は先ほどセイネリアに渡されたもので、矢の先には鏃の代わりに光石がついていた。しかもどうやって集めてきたのかリパの光石ではなく他の神殿魔法や、もしかしたら魔法使いからのものもあるかもしれない――とにかく違う種類の光石を鏃の代わりに先端につけ、飛ばす事で空を照らしているのだった。ついでにいうならそれだけではなく、矢の下には音が出るよう小型の風笛までつけて人々の注意を引き付ける事も狙っている。これなら庭の隅で多少の騒ぎが起こってもごまかしがきくだろう。
――あと、10本。
矢筒に残る、光石の矢を見つつエーリジャはランプ台の方を見る。
消えてしまったのは本来ならありえない事態であるから、ワネル家の使用人達があたふたと台の下に駆け寄って新しい火をつけようとしていた。その様子ならおそらくもうすぐ台に火がつく筈……とはいえ出来るだけ時間を引き延ばすため、次の矢を放つのは前の石の光が消える直前まで待つようにする。
更に言うなら、エーリジャはただ光石の矢を放っているだけでもなかった。
彼は歓声を上げて喜ぶ貴族達……だけではなく、庭の奥のセイネリアや、恐らくこちらを邪魔しようとしていたと思われる他の者の動向も見ていた。明かりが消える前に既にセイネリアが数人を仕留めたところは見ていたが、それで追い付かない人数を向うは用意していたらしい。だから台の火が消えるのまでは阻止できなかった……とはいえ、それも彼の想定内なのだから大したものだ。
次の光石の矢を放った直後、それに人々が気を取られている隙を見て、彼は素早く普通の矢を放つ。それは見事セイネリアに近づいていこうとしていた人物の足を射抜いた。
セイネリアがこちらを見る。彼も持っている鏡でこちらに合図を送ってきた。光ったのは2回……確か、想定外の何かが起こったという合図だ。それで異常があったのかと周りを見渡したエーリジャだが、そこからすぐセイネリアは庭から姿を消した。
――何があった?
それでもエーリジャは光石の矢を放つ事は忘れない。何か起こったとしても彼ならどうにかするとそう考える。
合図が中断や、警備兵に連絡しろ等の指示でない以上、こちらは予定通りに進めればいいだけである。一旦彼に任せると決めたのだから、自分は自分の役目を果たす事だけを考えるべきだろう。
空に光る青色の光が木々の合間に落ちていくのを見届けてから、エーリジャはまた矢を放った。……残りは8本、全て使いきるまでにランプ台の火が着く事を祈りながら。
セイネリアが狙った魔法使いは二度と姿を現さなかった。恐らく逃げたのだろうと思われた。
それにどうにも引っかかるものを感じながらもセイネリアは会場内を見回して、まだ他に怪しい者がいないかと注意を払う。
一人、逃げるように姿を消した何者かが視線の端に映る。多分、暗闇にならなかった事で諦めて退いたのだとは思うが、だからといって無視する訳にはいかない。
だが追うにしても消えた魔法使いの方も気になって、どちらを追うべきかと考える。その所為か、近くで小さな悲鳴が聞こえてはじめてセイネリアはこちらに何者かが近づいてこようとしていた事を知った。
エーリジャを見ればこちらを見てウインクをしていた。つまり今の悲鳴は彼の仕業だろう。
一か所に留まる危険を分かっていた筈なのにここにとどまり過ぎていた自分に呆れて、セイネリアは唇に自嘲を乗せた。
消えたランプ台ももうすぐ火が戻るだろう。
この様子なら会場の方は彼とカリンに任せてもいいかと判断して、セイネリアはエリージャに合図を送ってから、嫌な予感がして仕方ない魔法使いの消えた方に向かって走った。
そうして――思った通り、セイネリアの嫌な予感は的中していた。
花火代わりの光石の矢、ってことで次はセイネリアの戦闘ターン。




