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黒の主  作者: 沙々音 凛
第六章:冒険者の章四
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18・想定外の事態

 だから更に考えて――例えば、状況的にワネル家に恨みがあるだろうあのゼナ卿にもヴィド卿が手を回していたらと仮定してみる。ノウスラー卿とグクーネズ卿周りばかり気にしていたが、ワネル卿に直接恨みがある人間にも声を掛けてひと騒ぎ起こさせる、というのはあり得る話だと思えた。いやむしろヴィド卿からすれば、そんな自分にとって都合のいい人物がいるなら利用しない方が不自然なくらいだろう。それこそ立場が無くなって追い詰められた貴族など、話を聞いて同情したふりをし、そちらは悪くない相手が悪いと煽ってやるだけで動かせる。


――となれば、ヴィド卿にしては生ぬるい手、ではないのかもしれない。


 恨みがある人間なら何をやってもおかしくない。暗殺者の一人二人……いやヴィド卿が手を貸しているなら、一団単位で入る手引きをしていてもおかしくない。

 ヴィド卿の残忍さと容赦のなさは有名である。彼の政敵だったものはほぼ必ず不幸な事件に巻き込まれて身内に死者が出ていると言われるくらい、強引で血なまぐさいのが彼のやり方だ。ヴィド卿自身はワネル卿になんの恨みがないとしても、捨て駒が勝手にやらかした事ならワネル卿がどうなろうと気にしないだろう。なにせ罪は自分ではなく、操った連中が皆被ってくれるのだから。

 これは穏便には難しいかもしれないな、とセイネリアは頭の中で新しい可能性を加えてこれからの行動を考え直す事にした。






 パーティは続いていた。ワネル家の象徴でもある大きなランプ台の下周辺では次々演者が変わりながら余興が行われ、人々の歓声や笑い声が会場であるワネル家の庭園内で響いていた。

 カリンは辺りに神経を張り巡らしながら、一番人々が集まっている周辺に目を向けて軽く息をついた。

 今回の主役であるナーディラ・ワネル嬢とその父であるワネル卿――パーティの主催者である彼らは当然人の輪の中心にいる。だからその彼らにさり気なく近づくのはやはり難しい、とカリンは考えて僅かに眉を寄せた。


『悪いがカリン、大人しく傅かれていろとは言えなくなった。エーリジャの時にもし何か起こったら、その間にワネル卿か今日の主役の娘に暗殺者が向かうかもしれない』


 だから彼らを守れと言われて、カリンは少しづつ今日の主役であるナーディラとワネル卿の近くへ移動していた。エーリジャの番がきたら、話しかけようとして躊躇している田舎娘のフリでもして傍までいこうと思ってはいる……が、果たして上手くいくかどうか。

 武器であるナイフは袖に隠して持っていて、すぐにでも使う事が出来る。とはいえ自分が簡単に武器を用意出来たという事は紛れ込んだ暗殺者も出来たろうと考えて間違いない。貴族のパーティにおいては、男性は武器を携帯しないようにチェックされるものの女性へのその手のチェックは基本ない。だからもし紛れ込んでいるなら、女の暗殺者の方が可能性として高いとカリンは思っていた。だからカリンの注意は特にナーディラの近くにいる女達に向けられていた。


 エーリジャの的あてを失敗させて恥をかかせる……というだけではなく、それによって責任を追及できる状況を作るというなら、外した矢の所為で何か事件を引き起こすつもりだろう――と言うのがセイネリアの当初の予想だった。となれば怪しいのはワネル家の象徴とも言えるランプ台周り……それを壊すか、もしくはその灯を消してその時に盗難騒ぎでも起こすつもりではないかという事で、セイネリアはそれを狙っているグクーネス卿の手の者を止めにいく予定だった。

 ただグクーネス卿の手の者はまだしも、ヴィド卿側の手の者もいたらそれを止められないかもしれない。更には例のゼナ卿も人を置いている可能性があると考えればその役目をする者が何人いるのか分からないし、そもそも盗難程度の騒ぎで済まない可能性が高い。

 だからランプ台周りのトラブルを起こす事自体は止められない事も考えて、セイネリアはあの赤毛の狩人に『あの矢』を渡していたのだが……。


 そんな中、とうとうエーリジャの番が告げられる。

 そこでワネル卿とナーディラ嬢の周囲を見ていたカリンは、怪しい女を一人見つけた。


そろそろ事件が起こります。

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