15・ディンゼロ卿2
「それで、上手く収める策、というのは何だ?」
本題だというように肘掛けに肘を置いて頬杖をついた老人に、グローディ卿が再び頭を下げて言う。
「はい。ただその前に、こちらで調べて分かっている事を述べてもよろしいでしょうか?」
「いいぞ、話せ」
「ありがとうございます。今回、ご両家は互いに相手に恥をかかすというのが目的ではございますが、それは……実はヴィド卿の計画である可能性が高いのです」
「なんだと?」
流石に、彼にとっておそらく最も警戒すべき名を聞けば、余裕を崩さなかった老貴族の顔色も変わる。
「どうやら今回はご両家とも、ヴィド卿と繋がりのある同じ商人から入れ知恵をされて計画を立てているらしいのです」
ディンゼロ卿の顔があからさまに顰められる。愚か者共が、と呟いて、彼は椅子に背を預けた。
「それでどう上手く収めるというのだ。ヴィド卿が絡んでいるとなれば簡単に収まる話ではないと思うが」
「はい、ただヴィド卿がかかわっていると言っても彼が直に手を下してどうこうしようとしている訳ではないと思われます」
「何故そう思う」
即答で返してきたその言葉に、グローディ卿は落ち着いて説明する。とりあえずは、大規模な事件を起こす事の多いヴィド卿のやり方としては今回は地味で、そこまで本気の策謀でないだろうと。だからこちら側もそこまでの大がかりな準備をしなくてもどうにか出来ると話す。それらは全部セイネリアが言った通りの内容ではあるが、今回はグローディ卿が言うというのは最初から彼と打ち合わせていた通りであった。
そうして、その前提を話してから、グローディ卿は本題に入る。
「まず、今回の件を収める役はここにいる男と、あと、ノウスラー卿が余興用に雇った狩人となっております」
聞いて、ディンゼロ卿が僅かに背もたれから背を浮かした。
「計画の当事者の一人がお前の手の者、という訳か」
「左様でございます」
ディンゼロ卿はそこで少し黙る。
だが2,3呼吸程の間の後、聞き直してくる。
「具体的な案を話せるか?」
話せ、と言ってこないあたり、さすがに馬鹿ではない。
「それは少々難しくございます。ですが出来るだけ穏便に済ます予定ではあります。勿論、『何か』が起こったのが分かるのは当事者達だけで、他の方々は問題なくパーティーをただ楽しんで帰られる事でしょう」
「穏便に、か……」
ディンゼロ卿はそれを鼻で笑う。
「はい、穏便に、です。たとえもし被害者が出るとしても、それぞれが雇った者くらいでございましょう」
「成程な」
老貴族はそこで黙って、肘掛けに肘をついたまま指で顎のあたりを数度叩く。そうして暫く考えるだけの間があってから、彼は浮かせていた背を背もたれに完全に預けてから言った。
「いいだろう。そちらに任せる。だが……失敗は出来ないぞ」
最後の一言に凄みを利かせれば、ここまで打ち合わせ通りに自信満々だったグローディ卿も一瞬、顔を引きつらせて止まる。
だから代わりにセイネリアがそれに答えた。
「もし問題が起こったら、グローディ卿が騙されて連れてきてしまった一冒険者の男が原因、としてくれればいい」
ディンゼロ卿がセイネリアを見て、そしてまた鼻で笑う。
「あぁ、そうだな、そうさせてもらおう」
ディンゼロ卿との交渉はここまで。




