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黒の主  作者: 沙々音 凛
第六章:冒険者の章四
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14・ディンゼロ卿1

 最初から会場の隅にいたのもあって、セイネリアとカリンは人々の目にあまり触れる事なく廊下まではすんなり出る事が出来た。そこで待っていたグローディ卿が笑顔でカリンに手を差し出して、その手を取って歩き出したカリンの後ろをセイネリアは歩く。


 リパ神殿の宵の鐘が鳴ったら……それを合図として、セイネリア達は協力者側との顔合わせも兼ねた最後の打ち合わせに向かう事になっていた。

 今回の件を仕事として高く売り込むならディンゼロ卿を引き込むのが一番いい。だが流石にディンゼロ卿クラスになるとただの一般冒険者であるセイネリアの言葉を簡単に聞いてくれる筈もなく、だからセイネリアはグローディ卿を通してノウスラー卿とグクーネズ卿に怪しい動きがある事を伝え、そちらで調べて納得したなら上手く収める提案があると話を持って行ったのだ。

 そうしてパーティ当日、会場に入ってすぐディンゼロ卿からグローディ卿に渡されたメモに、宵の鐘が鳴ったら来いと部屋の場所が書かれていたという訳だった。


 ある程度の大物出席者となると、パーティー主催者側でその人物の為に個室を用意するのが普通である。特に高齢の人物の場合、この手のパーティに出席はしても会場にいる時間は少なく、基本的には個室で過ごして他の貴族達が挨拶に行く、というパターンが多い。

 ディンゼロ卿はそのどちらにも当てはまっていたから、彼が個室に篭るのは不自然ではないし、そこへグローディ卿が初めて首都へ連れてきた親戚の娘と共に挨拶に行くのも何らおかしい事はない。

 何度か彼に得をさせてきただけあってグローディ卿は今回の件もかなり乗り気で、話を振った時からすぐ協力を申し出てきた。だから意気揚々とカリンの手を引いて歩いて行く彼を見て、セイネリアは少し不機嫌そうに考えていた。


 実を言えば今回の件、グローディ卿を使うのはセイネリアとしては不本意だった。というのも同じ人物を何度も使うと勝手にこちらにとって最優先の協力者だと思い込まれてしまって、他に協力者が出来た時に面倒な事になる恐れがあるからだ。特に今は向うの方が上という認識をさせたまま付き合っているからこれで上手くいって調子に乗られ過ぎるのも困る。早い内に新しい協力者を作っておきたいという胸の内もあって、今回の件でそれがどうにか出来ればいいと思っていたのだが……。


 ディンゼロ卿の部屋に着けば、グローディ卿が名前を告げただけですんなり中へと入れられる。入ればすぐに警備兵に奥の部屋へと通され、そこでは長椅子に腰かけたディンゼロ卿が待っていた。

 グローディ卿が儀礼的に挨拶の言葉を言って頭を下げる。一応横に並んでいるカリンもそれに合わせてきちんとした礼を取る。

 それで二人が頭を上げると、ディンゼロ卿はグローディ卿を見て言った。


「確かに、お前の言う通りあの二人、最近、用途不明の者を何人か雇っていた。しかもあまりよくない仕事ばかり受けてる者をな」


 忌々し気な声の通り、老人の表情も苦々しい。ただ、下っ端貴族共とは違って機嫌が悪くても余裕のなさを感じさせない辺りは流石と言ったところだろう。


「おまけにそいつららしき者を、今回会場に連れて来ているようだ。……お前のように、護衛と誤魔化してな」


 そこで初めてディンゼロ卿はセイネリアの方を見る。セイネリアは兜を取った。ただし視線は下してわざと相手を直視しないようにする。老貴族はこちらの顔を見ると鼻で笑ってから再びグローディ卿を見た。――まぁ、たかだか平民冒険者などと話す気はないという事だろう。そんなのは最初から想定済みである。逆に今はこちらを軽んじてくれる方がいい。


このシーンはあと一話。

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