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黒の主  作者: 沙々音 凛
第六章:冒険者の章四
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10・情報屋の娼館3

「となると……いがみ合う両家を操って取返しの付かない失敗をさせ、両家の企みを暴いた後で責任を問う、目的はそれでディンゼロ卿の派閥を弱体化させると言ったところかな」

「あぁいい読みさ、ま、そんなところだろうねぇ」

「ヴィド卿のやり口なら、血が流れるような事態もあり得る、か……」


 セイネリアは考える。流石に現状でヴィド卿に手を出す気にはならない。ただ噂に聞くヴィド卿なら、それでもやり方としては生ぬるいと感じる部分もある。


「どうする坊や、危うきに近寄らず、なら手を引いといた方がいいかもしれないよ」


 セイネリアは尚も考えた。グラスを爪で軽く叩きながら、『可能性』を辿ってあるべき未来をいくつか想定してみる。そうして、人がよすぎて巻き込まれてしまっただろう赤毛の狩人を思い出して苦笑する。


「……そうだな、出来るだけ穏便に済ませるよう努力してみるか」


 言えばワラントは一瞬だけ目を見開いて、それから、ひゃひゃ、とやたら高い声で笑い出した。


「穏便に、とは面白い事をいうねぇ」

「あぁ、俺に似合わな過ぎていいだろ?」

「まったくさ」


 楽しそうに笑う老女に、セイネリアも笑ってみせる。


「今回の件、ヴィド卿にしてはやり方が手ぬるい気がする。両家をハメて間接的にその上にいるディンゼロ卿を落とすのが目的として、いくらヴィド卿でも政敵でもないワネル家のパーティーで大虐殺まで起こす気はない筈だ。となればヴィド卿が手を出す部分は、わざと失敗させるように手を回す程度と考えられる。一人二人、犠牲を出して弁明の余地を失くす……程度はあるかもだが、両家をけしかけて踊らせるだけというのは奴のやり方にしては手ぬるいだろ」

「まぁそうかもしれないねぇ」

「なら恐らく、奴にとってはただの遊び程度の謀略だと思えないか? 躍らせて上手くいったら面白い、程度のな」


 それならまだやりようはある。現状の立場で本気で政敵潰しにかかっているヴィド卿の計画に関わるなんて危ない橋を渡る気はないが、ヴィド卿にとってちょっと手を出してみた程度の計画なら潰したところでそこまで敵視されるものでもない。それなりにあちこちに恩を売るくらいは出来そうであるし、手を出してみてもいいかもしれないと思える。


「貴族が嫌いなクセに、貴族共に自分から関わろうとするお前さんは変わってるさねぇ」


 呆れたような老女の言い方は、だが口元が笑っていた。


「嫌いだから、奴らを大いに利用してやるのさ」


 だからそう返せば、老女はそれにまた声を上げて笑う。楽しそうに、ひゃひゃとしわがれた声で、気味の悪い笑い声を上げる。


「そういう事だからな、暫くこいつはにはいろいろ仕事を頼みたいんだが。……なにせ貴族共相手でなにより重要なのは情報だからな」


 それまで黙って傍に座っていただけのカリンは、急にそれで話を振られると驚いてこちらを見返してきた。


「いいに決まってる、最初からその娘はあんたのだろ、手が足りなけりゃウチから何人か貸してもいいさ。……なぁに、坊やなら礼は出世払いで構わないよ」


 ワラントのその言葉にカリンはセイネリアを驚いた顔で見つめたまま、そこで控えめに聞いてきた。


「あの……エルは、今回の仕事には……」

「あぁ、あいつには声を掛けないつもりだ。向かない仕事だろうしな」


 言えば彼女は、そうですか、と呟いた後に少しだけ考えるように下を向いた。


「なんだ、あいつがいないの残念か?」


 カリンはそれには苦笑して、それでも少しだけ寂しそうに返してきた。


「いえ、ただ……彼が残念がるだろうなと」


 セイネリアには正直、彼女のその言葉の意味が分からなかった。エルの性格上、貴族共の謀略劇は性に合わないだろうし、どう考えても彼的には気分が悪くなるだけの案件だ。だから彼を呼ぶつもりはないのは理に適っている。けれど理解出来ないからこそ、セイネリアの中で彼女のその言葉は少しだけ引っかかるものとして記憶された。



ワラントばーさんとの会話はここまで。

次回からちょっとカリンサイドのお話。

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