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黒の主  作者: 沙々音 凛
第六章:冒険者の章四
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9・情報屋の娼館2

「ワネル家の嬢ちゃんの誕生パーティーに呼ばれた面々の中で、ノウスラー卿の政敵と言えばグクーネズ卿だろうねぇ、これは間違いない。調べたらしっかり個別で冒険者を雇ってる、しかも狩人をね」


 にやにやと含みのある笑みを浮かべる老女の言葉に、セイネリアは眉を寄せた。


「グクーネズ卿は確か、ディンゼロ卿の派閥だったか?」

「そうさね、そしてノウスラー卿もディンゼロ卿の派閥さ」

「つまり同じ派閥内で仲が悪いのか」

「そう、いわゆる派閥内のナンバー2争いさ」

「ナンバー2争いとは低レベルな話だな」


 呟くように返せば、顔の皺を益々深くして老女は笑う。耳障りな高い笑い声はもう慣れたからどうとも思わないが、笑い終わるまで話が進まないのは正直面倒ではある。この老女も貴族を嫌っているからその笑い声は実に楽しそうで、そして長い。


「どちらがより上の手下かなんてどうでもいい話だろ」


 だから適度に笑い声が途切れそうなところでそういえば、ワラントは笑う事を止め、声を落として楽しそうに聞いて来る。


「あんたにとっちゃ、人の下についているというだけで同じというわけかい?」

「そうだ。それに下っ端の分際でいがみあってるという事はそれだけで下っ端として失格だろう。自分の方が上だと能力で主張し合うだけならいいが、足の引っ張り合いなぞどう考えても組織に不利益をもたらすだけだ」

「まったくだね、だが大抵の人間という奴はねぇ、成果が出るかどうか分からない努力をするより、相手を落とす方が自分を上げる近道だと思うものさ。余程自分の方が格上だと思っていない限りは実力で相手を出し抜くとはならないだろうねぇ……少なくとも苦労なんて知らない貴族様はそうだろうよ」


 口元の笑みを絶やさずにいうワラントの言葉は確かにセイネリアも分かっているところだ。だから貴族にロクなものはいないと思うところではあるが、貴族に限らず仲間内での足の引っ張り合いは珍しくないというのも分かってはいた。


「まぁいい、それでワネル家の立ち位置はどの辺になる?」

「そうさねぇ、一言で言や中立、ディンゼロ卿の派閥でもないし現在は宮廷貴族とも言い難い。ただ落ちぶれても過去は旧貴族だった家だからね、他の貴族共からすれば形式だけは敬意を払っている、というところかねぇ」

「なるほどな……」


 つまりいがみ合う両家からすれば、ワネル家は形式的にだけ頭を下げている名だけは古い家で、現在はそこまで力がないから多少の厄介事程度なら起こしても謝ればどうにかなるというところだろうか、とはいえ。


「流石にそれなら後々大問題になる程の事は起こさないか。となると策謀とは言っても、相手の面子を潰す程度だろうな」


 それならまだいいかとセイネリアは思う。暗殺計画にかかわるとなればこちらもかなりのリスクを負う事になるが、その程度のいがみ合いならそこまで割りに合わない話じゃない。だがそう判断した直後、ワラントは不気味に喉を鳴らして笑うと、ただし、と呟いて話を再開した。


「そう、ノウスラー卿とグクーネズ卿のいがみあいで済む話ならそうだろうねぇ。けどその両方に入れ知恵をしてる奴がいるならどうなるかねぇ」


 セイネリアは途端眉を寄せた。それが本当なら話が一気に面倒臭くなる。


「……そいつら二人を操ってる奴がいるのか」

「あぁ、直接両家に出入りしてる商人がいるんだが、それがどうにも胡散臭くてねぇ……で、調べたらヴィド卿とちょっとした裏取引をしてる奴だったという訳さ」


 セイネリアは大きく息をついた。


「随分大物の名前が出て来たな」

「そうさねぇ、最近の貴族の陰謀劇にはおなじみの名前だぁねぇ」


 ヴィド家といえば現在宮廷貴族では実質トップの権力を握っている貴族の名となる。勿論旧貴族で血筋的に文句のつけようもなければ王族とも親類関係が成立している名門中の名門だ。しかも現在の当主である男はなかなかのやり手らしく、かなり強引な手で政敵をどんどん葬っているらしい。最近の宮廷策謀劇で血なまぐさい話の裏には大抵ヴィド卿が絡んでいるとも言われているくらいだった。



この会話シーンは次で終わります。今回は陰謀劇寄りの話なのでやっぱり事前準備が多めになります(==;


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