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黒の主  作者: 沙々音 凛
第六章:冒険者の章四
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7・狩人の腕

 西の下区、そう呼ばれるこの街の貧民街ではありふれた風景。

 強い者が弱い者をカモにするのは当然で、力ない者は力ある者に目をつけられないように生きねばならない。それでも、たまに不幸な者は出る。だからこそ別の弱い者が助かり、ここなりの秩序が保たれているとも言えた。


「おらどうした坊主、もう終わりか?」

「わ、渡す、からっ……」


 怯えた子供はやっとの事でそれだけを言って何か持っているらしい手を前に出す。上半身がほぼ裸で装備だけをつけた男は首を左右に振りながらその子供に近づいていく。手には湾曲した幅の広い剣を持っていた。


「別にいいぜぇ……死んでから貰うからよっ」


 言って男が剣を振り上げる。

 けれど直後、ガン、と響いた音と共に男の剣は宙を舞って地面に落ちた。


「な、なんだ? 誰かいるのか?」


 男は慌てて剣を拾いに行こうとする。けれどその前にまた、ガン、と音がしたかと思えば剣が何かに弾き飛ばされて男から遠い場所まで転がっていく。更にはドカン、と頭上で大きな音がして、驚いて頭を抱えた男の上に何かが落ちてきた。


「うわっ、くそ誰だっ、姿を見せやがれっ」


 叫んでも返事はない。それでも男は完全な馬鹿ではないらしく、今の三撃で攻撃者のいるだろう方向を掴み、その方面から隠れようと傍の木の樽の影に入ろうととした。……が、その前にまた派手な音を出してその樽は吹っ飛び、虚しく樽の枠だけがカラカラと転がっていった。


「おいっ、何かあったのか?」


 どうやら仲間もいたらしい。動きようがなくて地面にうずくまる男に向かって二人分の人影が近づいてきた。


「向うだっ、テイラーっ、あっちを照らせっ」


 その声の後、間もなく空中にオレンジ色の光が広がって辺りをぼんやりと照らした。あの色は確か火の神の神官が作る光玉だとセイネリアは思う。ようはリパの光石と同じモノだがあれ程の光量はなくその分長めに光るらしい。

 治癒術をリパ神官とアッテラ神官が使えるように、仕える神によって魔法の原理は違っても効果がかぶるものはよくある。光といえばリパではあるが、一時的に辺りを照らす魔法は割と他の神殿魔法でもあって色や光量、持続時間などが違う。ただし、リパの光石が大量に出回っているし目潰しとしても使えるから他のその手の魔法石は殆ど使われていないのが現状で、なのにそんなモノをただのごろつきが使ったという事は、おそらく仲間か知人に火の神の神官がいて格安で作ってくれたのだろう。


 薄暗い路地裏がオレンジ色の明かりに包まれて路地の奥までを照らす。とはいえその程度では襲撃者の姿を見つけられはしない。彼の位置はもっと遠い――セイネリアは狼狽える男達に近づいて行きながら思った。


「弓だっ、サリア、狩人がいるっ、こっちにこいっ」


 ただ照らした所為で壁に刺さった矢を見つけたらしく、男の仲間がそう叫けば男は剣を諦めてそちら側へと走り出した。だから今度はセイネリアが矢を放つ、3発程連続で。

 そうすれば一発目が男のベルトの横を掠め、二発目がもう一度ほぼ同じ場所を掠め、三発目がその下にある袋に刺さってその袋が落ちる。袋の中からこぼれたそれが何かまではセイネリアにも分からないが、バラバラと小さな何かが地面を転がっていくのが見えた。


「うぇっ、なんだ、こっちにもいやがるのか?」


 男が腰を押さえながらセイネリアの方を見る。だがその振り返った男の目の前をひゅっと音を立てて矢が通り過ぎて行き、少し先の何かに当たってドン、と派手に破壊音を鳴らした。なにせ狩人の使っている大弓の方はこちらより一発の威力が大きい、当たればその辺りの半分朽ちた壁や箱など簡単に砕け飛ぶ。その音だけでも男は面白いように飛び上がって、焦ってその場で頭を抱えた。

 更には脅しのようにまた一発、狩人の大弓から放たれた矢が男の背を通り過ぎて何かに当たる。ガシャ、と何かが割れたような音に悲鳴を上げた男は、セイネリアの方を確認するのもやめて仲間のもとへ走った。もはや振り向く事もなく一目散に走る男を見て、セイネリアはまた何発か矢を放つ。今度は背中に括り付けてあった何かが落ちたが、もう男はそれを気にすることもなかった。

 狩人の弓からは角度的に当たらない位置に入ってからもセイネリアは追い打ちとして適当に矢を放っておいたが、それはもう当てる気はなく本当にただの脅し用だった。


 そうして男達が完全に消えて見えなくなってから、一応は助かった筈の子供を確認しようとしたセイネリアだが……そこには誰もおらず、セイネリアは苦笑すると狩人がいるだろう場所へと戻った。



キリいいとこまで、ということで少し長め。

セイネリアは基本パワータイプのキャラですが、弓ではまず大弓は使いません。

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