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黒の主  作者: 沙々音 凛
第五章:冒険者の章三
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32・お仕置き

 そしてその冷たい笑みのまま、セイネリアは彼らに言う。


「脅してまで貴様らをどうこうする事に意味があるならな。だが貴様らが俺にとってどうでもいい存在なら脅す必要もない。ま、せいぜいこの先俺と関わらないで済む事を祈って、やれるなら今まで通り悪行を重ねていけばいいんじゃないか?」


 言いながらセイネリアは小馬鹿にしたように喉を鳴らして笑ってみせた。

 とはいえ言葉だけならあまりにも気楽に聞こえるそれに、ソレズド達は明らかにほっとした顔をして体の力を抜いた。ただモーネスだけは険しい顔をしたままで、黙ったままセイネリアの顔をみ返すだけだったが。

 カリンとエルはやはり納得がいかない部分が残っていた為仕事の成功を単純に喜ぶ気にはなれなかったが、とりあえずセイネリアが宣言した以上そこから彼らに文句をいう事もなく、一応は引き続きパーティの仲間として首都まで一緒に行動する事は同意した。


 ただしその後、やましい部分がある所為かソレズド達はやけに腰が低くなって、まるでこちらの下僕のように振る舞っていたのは失笑を禁じ得なかったが。魔鉱石の分配についても5人の向こうと3人のこちらで半分で割ったところからして、彼らとしてはこちらの機嫌を取っていたつもりだったのだろう。カリンとしてはエレメンサもドラゴンも結局はセイネリアが全て倒したのだから山分けどころかまず主が半分を貰ってもいいと思うくらいだったが、主本人が『それでいい』と言った事に口を出したりはしなかった。


 それでも今一つ嫌な気分が残るのは確かで、同じく腹にまだもやもやするものを抱えているらしいエルに相談してカリンは一つだけ彼らに『お仕置き』をする事にした。理由を言えば主も許可をくれたので、カリンは遠慮なく仕事の報告が終わった後の事務局前で、別れの握手を求めてきたソレズド達の前に嫌味な程の笑みを浮かべて出て行った。


「いや……あの、いろいろ申し訳なかったが、そのよろしく……」


 あれから終始目を合わせようとしなかったカリンが笑っていたからだろうか、ソレズドは嬉しそうに手を出してきた、が……カリンは手を出す代わりにすっと僅かに体勢を落とすと、くるりと綺麗にその場でターンして回し蹴りを彼の腹に食らわせた。


「ごがっ……がっ」


 まぬけ顔で腹を抑えてソレズドは地面に倒れ込む。一方、男一人を蹴り上げた直後とは思えないほど息も体勢も乱していないカリンは、倒れたソレズドの後ろにいた二人の戦士にもにこりと笑いかけた。びくりと焦った彼らは、だが引きつって固まっている間にソレズドと同じ運命を辿る事になる。ふわりと音を立てずにカリンが動いたかと思えば、ぐげ、ごへ、とカエルが潰れるような悲鳴の合唱が起こって、腹に膝蹴りを食らった二人は同時に倒れた。

 地面に蹲ってのたうつ三人の男とカリンに、辺りにいた冒険者達の目が集まる。

 カリンは笑顔のまま、やはり息ひとつ乱さずに周りにも聞こえる声でソレズド達に言い放った。


「これはどさくさに紛れてこちらの体をべたべた触ってきた罰だと思ってください。あなた方のようないやらしい人たちとは二度と組みたくありません」


 周りの冒険者達から失笑ともいうべき馬鹿にした笑い声が起こる。これでソレズド達は以後、冒険者は続けられてもスケベ男と呼ばれて揶揄われる事は確実だろう。特に女性からは嫌われて、組んでもらえなくなることは疑いようがない。やってきた事に比べれば罰にもならないが、その程度の腹いせくらいはしてもいいだろう。


 戻ればエルが楽しそうに片手を上げていたから、カリンはその手を軽くたたく。パン、と掌同士が鳴った後、通り過ぎたカリンにエルが満足そうに言って来た。


「ま、二段階だからな、地獄の苦しみだろうぜ」

「放っておいたらマズイような怪我はさせていませんから、誰も治癒は掛けないでしょう」


 カリンはソレズド達を蹴る前に、エルから強化術を掛けて貰っていた。



痛いの2回目ですが、こいつらにはこれくらいのバチは当たっていいでしょうね。


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