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黒の主  作者: 沙々音 凛
第五章:冒険者の章三
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30・握手

 エルの視線の先――ソレズド達を見て、カリンも納得する。

 言われれば状況的にも自分の役割的にもそれは当然ではあって、カリンは即座に了承の返事を返した。エルは、悪ィな、とやはり小声で返してきて、セイネリアの傷に視線を移す。

 それでカリンは治療をしているモーネスとソレズド達の方に目を向けたが、痛い痛いと騒ぐ連中をなだめながら治癒を掛けている姿はまるで子供と祖父のようで、あれで本当にソレズドが上級冒険者なのかと思って不快げに眉を寄せる事になった。


「……そういえばエル、アッテラの術だと重傷者にはあまり治癒術を掛けないのか?」


 そこで聞こえてきた声に、視線はそのままで意識だけが背後に向く。

 目ではソレズド達を見ていても、主の声が聞こえればカリンもそちらが気になるのは仕方がない。


「へ? そりゃ状況によりけりだがよ」

「グェンというのが怪我の時、やけにあっさり治癒しなくていいという話になったろ」


 あの時か……とエルとセイネリアの会話にカリンは思う。正直なところカリンは国教である三十月神教の神々の名前と各神官が使える術というのに関して、知識としてはあるが実践では見た事がないというのが殆どだ。だから当然、セイネリアが聞いた疑問と同じものをカリンも感じてはいた。


「分かってンだろーが、アッテラの術は効果が高い程術受ける者の体力を使うんだよ。で、骨折とかの治療となったら体力ある奴でも暫く戦力としちゃ使いモンにならないくらい体力を持ってかれる。あの時点でお荷物増やす訳にゃいかねーだろ、痛くてたまんねーとか出血が酷いとかなら行った方がいいかと思ったんだけどよ」


 なるほど――言われれば確かにそれは理に適っている、とカリンは思う。


「ま、お前の場合だったら、骨の一本二本ならとりあえず治すのもアリだろーけどな、体力なら意地でどうにかしそうだしよ」

「そうだな、状況によっては頼むかもしれないな」

「はいはい、状況によっては、ね。まーンな大怪我しねーのが一番だけどな、お前って無茶しすぎっからよ。……ったく、あんだけの大立ち回りやってこの程度の怪我でよく済んだと思うぜ」

「無茶をして生き残れるなら無茶をするべきだろ?」

「へーへー、それで本当にどうにかするお前はすげぇよ」


 笑って言う主と本気で心配しているらしいエルとのやりとりを聞けば、エルと主の間にはちゃんとした信頼関係があるのだろうというのがカリンにも理解できる。それにあの時、良く言えば迷いなく、悪く言えば後先考えず、折角登れた縄を離して主を助けようと下に下りたこの男は間違いなく信用出来る人物と思っていいだろう。少々馬鹿正直すぎるが主にとって有益な、主の仕事仲間としてカリンも認めるべき男であると思えた。


「ほい、これで終わり……っと。悪かったな、お嬢ちゃん」


 だからそう声を掛けてきた青い髪のアッテラ神官に、カリンは言った。


「カリンでいいです、お嬢ちゃん、という呼び方は何かふざけている感じで聞いていて不快ですから」

「へ? ……あ、あぁ」


 エルは一瞬驚いて、だがそれからにっと笑うと、こちらに手を出してきた。


「んじゃ俺もエルでいいぜ、どうやらあんたとも長い付き合いになりそうだからな、これからもよろしくってとこだ」


 だが伸ばされた手をじっと見て、カリンは暫く固まった。そうすれば戦いの神の神官は焦って追加で言ってくる。


「あー……握手だよ握手、仲良くやろうぜって互いに確認とるための……まぁ、同意してくれンなら握り返してくれりゃいいんだよ。言っとくが下心とかはねーからなっ」


 カリンがそっと手を出して握り返せば、エルはまた笑って手を上下に軽く振ってから離した。育ちが育ちであるから……それは、カリンにとっては初めての握手となった。



あっち見ててくれ、といっても別に女性に見せられないとこを治すとかじゃないですよ。

とりあえずこれでカリンもエルを仲間認識したようです。

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