25・戦い終わって
――ぎりぎりだったな。
考えれば笑えてくる。なにせもう火を防ぐ手段はなく、手には武器もない。おまけに術が解けた所為で腕も足もいつもの半分程度しか力が入らない。一応槍だけは呼べばくるだろうが、タイムラグがあるだろうからここで攻撃を受けたらまさしく手も足も出ない状態だ。
――それでも、俺は生きてる。
ならばまだ何かを為せる、それが出来るだけの価値がある人間なのだろうと思える。
セイネリアは笑った、地面に手をついて、空に向けて大声で笑った。ここまで気分がいいのは久しぶりだと思いながら、青い空に向けて笑った。
「おい……ショックでイカレたんじゃねーだろーな……」
後ろから聞こえた声に振り向けば、エルがやっぱり心底うんざりしたというしかめっ面で立っていた。
「残念ながらイカレる程ショックは受けてはいない。この通りピンピンしているぞ」
「あー……そりゃ良かったことで。俺ァ今日だけで何回心臓が止まると思った事か……」
「お前は別に怪我をしてないだろ」
「見てるだけってのもきっついんだよっ」
怒鳴った彼もその場に座る、胡坐を組んで不貞腐れて腕を組んでため息をつく。
「……エル、教えて欲しいんだが、ドラゴンは槍を食らったあとどうなった?」
座り込んで顔を顰めていたエルは、それには不審そうな目を向けてきて答えた。
「あー、なんか火が奴の顔のとこでボンって触れ上がってさ、そんで燃えた、何したんだ?」
「そうか……それは思った以上に想定通りだな」
聞いてセイネリアはまた笑う。エルは怒鳴る。
「だっから笑ってないで答えろ、気味悪ィ」
「運が良かったのさ」
「なんだよ、答えになってねぇぞ」
セイネリアはそれに笑うだけで返す。
実のところ先ほどエレメンサと戦った時――カリンの機転で助かったあの時、盾もなく槍だけを持っていた状況でどうやれば火を防げるかセイネリアは考えた。そこで思いついたのはあの魔槍の持っている魔法についてで、刃に風の魔法を纏っているなら斬って鎌鼬のような効果が表れる時、その周囲には風が起こっているのではないかという事だった。それならもしかしてそれで火を防げないかと考えて――ただそれに賭けるのは分が悪いと、その時は頭の中で却下して試そうとはしなかった。
それを思い出して考えたのだ、なら槍を火の吹き出し口であるドラゴンの口内に突き立てたなら、吐き出された火は刃が纏う風で膨れ上がってドラゴンでもただでは済まないのではないかと。
ドラゴンというのは強い魔法を持っているだけあって頑丈な生き物である、もし思った通り槍が喉に刺さったとしてもそれだけなら死ななない可能性も高い。死ぬにしてもそれまでに時間が掛かって全力で暴れられたら、倒せはしてもこちらも逃げきれないだろうと考えた。だからこその二重効果を狙った訳だが……まさかここまで思った通りに上手くいくとは思わなかったというのがセイネリアとしても正直なところだ。ドラゴンは当然火の耐性を持っている、自分の吐いた火でダメージを受ける事はないかもしれない――その可能性も考えていたから、結果は想定より上手く行きすぎたと言える。
「……まぁ、倒せたのはお前のおかげだ、帰ったら礼に一杯奢る」
誤魔化すようにそう告げれば、エルはまた眉を跳ね上げて怒鳴ってきた。
「ざけんな、帰ってからの祝杯は全額お前持ちだ」
言って即、彼がそっぽを向く。それには笑っていたセイネリアだが、ゆっくりとこちらへ近づいてきた老神官が見えると、そちらを見て思わせぶりに言ってみた。
「まぁそれでもいいぞ、何せちゃんと金は人数で山分けになりそうだしな」
「ちゃんと……って?」
エルの疑問には答えずに、セイネリアは掌を握ってみて体の回復具合を確認すると立ち上がった。
ドラゴンの頭が燃えてた答え合わせ編、というか今回、説明だけで終わってしまった感がありますが。




