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黒の主  作者: 沙々音 凛
第五章:冒険者の章三
157/1202

17・エレメンサとの戦い、次戦2

 既に槍は呼んでいた。だが、来るまでには時間が掛かる。

 セイネリアは抜いていた剣を鞘に入れてその手で腰袋の一つを探った。それにはリパの光石が入っていて、それを握りしめながら後に下りてきたエレメンサの方へと向かった。


「ソレズド、出来るだけ後ろのと引き離せるかっ」


 叫べば、ソレズドの、やってみる、という返事が返ってくる。洞窟内に先に下りたエレメンサは、直後に翼を畳んでドタドタと歩きだした。どうやったかは知らないがうまくソレズドは一匹目を挑発してひきつける事に成功したらしく、後から降りたエレメンサをおいて幾分か大きい方のエレメンサは洞窟の奥へ走って行く。

 この場所はかなりの広さがある、それに体の割りに貧弱なその足の見た目通り、エレメンサはそれほど速く走れていなかった。

 それでも距離があればエレメンサは火を吹く。運が悪いことに今回のエレメンサも火が吹ける個体らしく、後ろから赤い光が上がるのが見えた。とはいえ盾もあるしあの老神官の言う通りならもっと上の耐性呪文もあるのだろうと思って、セイネリアとしてはソレズドの方はこちらに近づく足音がない限り任せるつもりだった。


「おい化け物、こっちだっ」


 セイネリアは後に下りた二匹目の小型のエレメンサに近づくと、畳み切れていなかった羽を盾で殴りつけた。そうすればエレメンサはセイネリアを見て口を大きく開く。これも火を吹けるのか――セイネリアは横へと走った。

 直後、火はセイネリアの居た場所を焼く。

 セイネリアは既にその場所を退いていて、それでも僅かに飛んできた火は盾で防げたから無傷で済んだ。だがその時、火が先ほどのエレメンサよりずっと勢いが弱く、しかも持続時間も短い事にも気がついた。体も明らかに小型で、翼を考えなければ背の高さだけならセイネリアより低く、まだ若いのか弱い個体だろうと判断する。


「くそ、さっさと死ねぇっ」


 聞こえた声と音からして、セイネリアとは反対側に回っているグェンとウィズランがどうやらエレメンサの羽に斬りつけたらしい。エレメンサは悲鳴を上げて今度は向こう側に首を曲げた。けれどそこでセイネリアの時のように即火を吐きはしない。羽を動かして彼らを叩き飛ばそうとする。

 ならばおそらく、次の火を吐ける準備が出来ていないのだとセイネリアは思う。

 先ほど倒した時もそうだが、この種族は火を吹いた後にすぐ次の火を吹けない。そうでなければあの時盾を外した直後、無様に口に剣を突っ込まれる前にこちらを焼き殺せた筈だった。

 とは言っても、時間がある程度あれば次が吹けるようにはなるのは確かで、それもそこまで長いという訳ではなさそうだった。ウィズラン達に攻撃の矛先を変えていたエレメンサはそこでまた口を開いた。

 だがセイネリアは口元を歪めるとまたエレメンサに向かって行った。


――やっとか。


 羽をまた盾で殴りエレメンサの顔をこちらに向けさせる。

 それから、今まさに火を吐こうと口を開けたその顔に向かって手に持っていたリパの光石を投げつけた。


「目を瞑れっ」


 声から間もなく、光が弾ける。

 セイネリアは目を閉じたまま、盾で体を守ってしゃがんだ。即座にボッと、火の音がしたと思うと体の左方面から熱を感じた。盾をもつ手ごたえからしても、吐いた火は盾を僅かに掠める程度で左側に逸れたらしい。おそらくエレメンサが光で目をやられたからで、完全に外れなかったのは計算違いだがこの程度で済めば十分だった。

 ギャァァと長い、尾を引く悲鳴を確認してセイネリアは目を開けて立ち上がった。光に視界を奪われ頭を振っているエレメンサを見て盾を投げ捨てる。代わりに宙に向けて伸ばした手には魔槍が現れていた。

 エレメンサはすぐに火を吐けない、そうしてセイネリアの姿を確認出来ない。

 セイネリアは化け物に向かって走り込むと、槍を大きく振り上げた。

 次の悲鳴は途中で途切れる。

 何故なら魔槍の斧刃がエレメンサの首の付け根から胸を横切って上半身を斬り落としたからだ。


――これで一匹。


 倒せた事を確信した途端、セイネリアでさえ一瞬、そこで気が抜けた事は否めない。

 それでも即座にソレズドがひきつけていたもう一匹がどうなっているのか確認しようとして振り向いたのだが――それは少し遅かった。


「セイネリア、上だっ」


 エルの声でセイネリアはすぐ上を向いた。

 そこにはもう一匹のエレメンサが、セイネリアに向かってきながら口を開ける姿があった。


もう一匹いましたからね。

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