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黒の主  作者: 沙々音 凛
第五章:冒険者の章三
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2・目立つ男

 北の大国と呼ばれ、周辺各国から一目置かれているクリュース王国の首都セニエティの夜の風景を見れば、他国から来たものはそれだけで驚く。とにかくまずはその明るさに。道を照らす街灯の明かり、他国の者でも畏怖さえ覚える夜空に青白く浮かび上がる城の姿、そうして何より夜の繁華街の街並みと、店に入った時の昼のような明るさに。


――たしか犯罪が起こりやすいこういうところ程明るくした方がいって、どっかの学者様だか魔法使いだかが言ったんだっけ。


 もう見慣れた酒場街を歩きながらエルは思う。

 クリュースは周辺国家では唯一、魔法が普通に認められている国である。とはいえ魔法使いと呼ばれる者は生まれながらに素質を持つ限られた者にしかなることは出来ない。それでも魔法の恩恵は誰もが受けられる。魔法を使える者達が作った魔法のアイテムが普通に出回っており、こうして街を照らす魔法の粉など余程の貧困層でない限りは誰でも使える。ちなみにこの粉はスプーン一杯程度の量で一晩中火を灯してくれ、しかも熱がないから火事の心配もないという優れものだ。他にも一瞬で食事を温められる粉や、方向を示す石、声の録音ができる石、一瞬で場所を移動する事も……とにかく様々な魔法が浸透していて、おかげでこの国では最下層に近い人間さえ他国からすればお伽噺のように便利な生活を送っている。

 それに魔法を自ら使う事だって、魔法使いにはなれなくても三十月神教の神様のどれかの信徒にさえなれば誰でも可能だった。神官になれば人に魔法を使ってやれることだってできる。しかもこの国では神官になるための神官学校は殆どの神殿が無料でやってくれていて、単純に勉強をしたくてこの国にやってくる者だって少なくなかった。


 まぁ俺は単に強くなっていい仕事を貰って成り上がりたいから神官になったけど――とエルは考えながら並ぶ明かりの一つ、いかにも酒場という店構えの中に入っていく。


「お、エルこっちこねぇか、仕事の話もあるぜ」

「あー……悪ィなゼニエ、次の仕事はもう決まってンだわ、それに今日は人と会うんだ、すまねぇ、今回は残念だが次はよろしくなっ」

「そっか、そら仕方ねぇ、またなっ」


 エルは冒険者としてなかなかに顔が広く、だからこういうところへくれば知り合いの一人二人は必ずいる。性格上、パーティで果たしてきた役割上、だから酒場へふらっと一人で来たとしても一人酒になることはなく、どこかのテーブルから呼ばれてそのまま誰かと騒いでいるというのがいつもの事だ。


「さって……お、いたいた。相変わらず目立つといや目立つなぁ」


 酒場の中でも壁際の隅の席に目的の人物を見つけて、エルは騒いでる連中の間をぬって近づいていく。

 目立つ長身の上に全身黒ずくめ――もしかして本人は目立っているつもりはないのかもしれないと思えば笑いたくなってしまうが、まぁ見ただけでいかにも怖そうな人物だから周りの人間は目立っていたとしても彼の事をじろじろ見たりはしない。……が、近くの席が悉く空いているところからして避けられているのは確かだろう。


「待たせてすまねぇな」


 言いながら空いている彼の前の席に座れば、あの見ただけで身がすくむような琥珀の瞳がじろりとこちらを見てくる。


「いや、俺が早かっただけだ、気にするな」

「そっか、そんならよかった」


 慣れても見た瞬間の迫力はやはり心臓に悪い。とはいえ怖そうだし偉そうなこの男も話してみると意外な程付き合いやすい、というのがエルの感想だ。

 別に思った以上に謙虚だとか優しいだとかはなく、怖いのも偉そうなのも確かだが、噂で聞く乱暴者のイメージとはかけ離れてこの男はどこまでも冷静で理性的だ。つまり感情任せの理不尽な理由で怒ったり暴れたりはないから、こちらも正直に話して真面目に受け答えすれば、例え彼に対する批判であっても理があればちゃんと聞いてくれるという訳だ。

 それで腕も頭もとびっきりに使えるとなれば、余程運が悪くない限り、この男がある程度の地位まで上り詰めるのは確実だろう――とエルは思っている。


 そこで丁度傍を通った店員を呼びつけて酒を注文すると、エルは背もたれに腕を掛けて身を少し乗り出した。


「さて、んじゃ仕事の話に入ろうぜ。聞きたい事があるってぇ事だったが」

「あぁ、今回のエレメンサ退治の仕事についてだが……」

「あーエレメンサについての話なら俺に聞いても一般的に知られてる事くらいしか知らねぇぜ。なにせ普通は下っ端冒険者にはまず来ない仕事だからな」


 エレメンサというのはいわゆるドラゴン――羽のある大トカゲみたいな化け物――の小型なものの事である。ドラゴンと呼ばれるモノが人間の3,4倍クラス以上のサイズであるのに対し、エレメンサは人間とどっこいどっこいのサイズである事が多い。勿論同じくらいのサイズと言われてもそれはあくまで立った時の身長の話で、翼を広げれば身長の5,6倍はゆうにある。その羽による風圧や、鋭い爪や大きな口はその辺の化け物とは一線をひく厄介さで、一応ドラゴン族ではあるからモノによってはドラゴンブレス――つまり火を吐く奴だっている。雑魚退治専門の下っ端冒険者はまず誘われる仕事ではなく、普通は腕に自信ある上級冒険者や、術者が揃っているか魔法使い入りの実績のあるパーティが呼ばれる仕事だった。


エル視点の話になるとセイネリアにつっこみを入れつつ呆れる事が多いです。


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