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黒の主  作者: 沙々音 凛
第四章:冒険者の章二
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32・魔槍と予感

 太陽が真上に近い完全な昼時、皆の元に帰れば、どうやら心配していたらしいエルが真っ先にこちらを見つけて手を振ってきた。さすがにセイネリアは手を振り返さなかったが、代わりに魔法使いが笑顔で振り返したからそれには笑いを抑えられなかった。おかげで出迎えたエルにはやけに不審そうな顔をされてしまう事になってしまったのだが。


「……ってか、らしくなく随分ご機嫌なようで。こっちはなっかなか帰ってこないから何かあったのかと思ったろ……いやお前の事だから心配なんかしちゃぁいなかったがよ」

「あぁ、悪いな、エル」


 そう返せばエルの顰められた顔が少し驚いて、それからちょっと満足そうに彼は笑う。本当に分かりやすい男だと思いながらも本当に人のいい男だとも思って、セイネリアとしては苦笑するしかない。


「その様子じゃやっぱなんか出たのか?」

「まぁな」


 手に魔槍を持って、おまけに鳥だけには見えない荷物を持っている段階でそこはそう答えるしかなく、言われたエルはやはり少し顔を顰めた。


「そらお前なら一人でも大丈夫だろうけどさ、一応何かの時の為に光石投げて知らせたっていいじゃねーか、パーティがいんだからさ」

「面倒だったしな」

「そーだろーがよー、一応知らせるためになぁ……そらお前なら全然問題ないんだろうけどよ」

「まぁな」


 彼がこれだけ言ってくるのはこちらを心配しての事ではあるのだろう。まぁ、大丈夫だとは思っていた、というのも本心ではあるのだろうが。ともかくどこまでも正直な男はまだぶつぶつと文句を言っていたが、さすがに他の連中がやってくると表面上はいつも通りの愛想のいい顔に切り替える。

 ただし。


『魔法使いサンとは話がついたらしいな』


 こそっとこちらにそう耳打ちをしてきたから、セイネリアはとしては正直驚いた。

 だから思わず彼の顔を見てしまったのだが、彼はにんまりと笑ってこちらにウインクを返す。


「そらな、あいつがお前に話ありそうだったのは分かったし」


 そこで他の連中が目の前にきたからその話はそこまでになったものの、正直少し彼を侮っていたようだとセイネリアは考える。流石パーティのまとめ役をかって出ていただけある――いつでも人と関わって生きて来た人間というのは、セイネリアのように完全第三者目線の人間ともまた違う角度で敏感に状況を嗅ぎ分けるものなのだろう。


「なんだ敵だったのか! クソ、何故俺を呼ばなーい」


 脳に理性の入る余地のない馬鹿男の言葉に何かを返す程セイネリアは親切ではなく完全に無視すれば、脳筋男は悪態をつくもののその興味はすぐにセイネリアの持つ槍に行く。セイネリアの魔槍の事は冒険者間ではそこそこ有名になっている事もあって、その後は他の者も入って槍に対する質問ぜめを食らう事になった。



 魔法使いの目的は果たされたというところで、勿論その後は何事もなく山を下りて仕事もすんなり終了した。

 何も知らないメンバーは、今回の仕事は楽だったと言いながらも報酬自体はちゃんと出た為不満を漏らす事はなく、皆無事で帰れた事を祝って付き合い程度に酒場で飲んでから解散した。


 あの後セイネリアが素の魔法使いとまた話す事はなかった。あの魔法使いは恐らく魔法ギルドの命令でセイネリアが魔槍からどれだけの知識を手に入れているか探る為に派遣され、そうして今回は大した知識を手に入れていないと報告してはくれるのだろう。とはいえ今回はそれで済んだとしても魔法武器持ちとして魔法ギルドに目をつけられているのは確実で、行動をある程度監視されていると見て間違いない。だから多分……嬉しくない話だが、今後も魔法使いからなんらかの干渉をされる可能性はあるという事になる。だからこそボロを出す前に自分に言えとあの魔法使いも言ったのだろう。


 魔槍……魔法使いの魂が入った槍、確かに便利でこれのおかげで助かった事は多いが、おかげで厄介な問題も手に入れてしまったとセイネリアは思う。果たしてこれを手に入れたのは幸運だったのか、それとも不運だったのか……ただそれが分かるのはまだ先の事だろうと漠然と何か嫌な予感と共に考えた。



やっとこさこのお仕事分は終わりです。キリがいいので一旦章区切ろうかな。

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