28・魔法使いの正体3
なんかなかなか話が進まなくてすみません(==;
「……まさかそういう手でくると思わんだろーが」
不機嫌な魔法使いの声に、セイネリアは笑って向き直った。
予期してなかった事を目の当たりにした事でなさけない間抜け面を晒した魔法使いに、セイネリアは澄まして答える。
「いくら体が固くても動きがトロすぎだ。あんなのんびり方向転換などしていればその間にどうとでも出来る。まさかいくらトロくさくても刃が通らなければ槍を出すしかないと思ったのか?」
魔法使いはそこで気まずそうに目を逸らした。当たりか、とセイネリアは思う。
「単純すぎるな、斬らなくても勝てる方法などいくらでもある。人間は肉食獣と違って歯が通らないからと諦める必要はない」
「……かといってそんなの……思いつくかっ」
憮然とした表情で目を逸らしている魔法使いはまるで悪戯が失敗した子供のようで、セイネリアは呆れて肩を竦める。
ただ、この魔法使いに関しては、これで確定した事があった。
「あんた、マトモな戦闘経験ないだろ」
魔法使いは開き直って怒鳴ってきた。
「ある訳ないだろ、この俺が武器を振り回して戦った事があるように見えるかっ」
まるでやけくそのように……それでも胸を張って偉そうにそう言ってきた魔法使いに、セイネリアは笑いを抑えられない。喉を慣らして笑っていれば魔法使いの顔はどんどん赤くなっていって、その様さえおかしくて余計に笑いたくなる。それでもセイネリアは笑いを収めると、真っ赤な顔の魔法使いに言ってやる。
「……まぁ、無駄な事をせずに諦めてさっさと目的を言え、槍を呼ぶとは言ってはいないが呼ばないとも言ってないぞ、俺は」
そういえば、魔法使いは赤くなった顔を下に向けて、思い切り不機嫌そうな声で呟いた。
「……調査だ」
予想通りの答えではあるが、セイネリアはすぐに聞き返した。
「何の調査だ?」
「その魔槍の中の魂の状態とか、主であるお前との繋がり……とかだ。お前も槍の主なら分かっているんだろ、その槍の中に何がいるか」
「まぁな、それで、調べるだけで特に槍や俺に何かをする、という訳ではないんだな?」
「あぁ、あくまで調べるだけだ」
「そうか」
それでセイネリアはまるで魔法使いを無視するかのようにくるりと背を向けると、倒した大トカゲの方にいく。
「これも食えるか」
尻尾を持ってひっくり返してみれば、喉や腹にも鱗はあるものの背の鱗よりも細かくて柔らかそうではあった。これなら口から割いて皮を剥げばいいかと考え、右の腰から短剣を抜けば、無視されて呆然としていた魔法使いが怒鳴った。
「貴様っ、どういうつもりだ? 槍を呼ぶのか呼ばないのか――」
「だからもう呼んだ、ただ来るのに時間が掛かる」
「そ……そう、か」
それで怒鳴った魔法使いも怒りの持って行きようがなくなる。
憮然としているその顔が想像出来て、口元に笑みを浮かべたままセイネリアは大トカゲの皮を剥いで行く、それから間もなく。
――来たな。
槍が近づいてくれば感覚でそれが分かる。嬉しい事ではないがそれはあの魔槍にある意志とセイネリアの意識が繋がっている所為だ。その所為で槍の使い方、性能に関しては主になった瞬間に自分の中に当たり前のように知識としてあった。ただし、自分で習得した過程がないのに分かっているという感覚はやはり不気味で、槍の主になった事を後悔している理由の一つでもある。
立ち上がって手を横に伸ばせば、不機嫌だった魔法使いの表情が一変して嬉々としてこちらへ近づいてくる。
セイネリアとしても槍についての情報を手に入れるチャンスでもある為、どちらにしろこの魔法使いには最初から槍を見せるつもりではあった。ただ見せるなら見せるで少しでもこちらが優位な状態で話を進めたかっただけの話だ。




