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黒の主  作者: 沙々音 凛
第四章:冒険者の章二
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24・アッテラの術

「で、どうよ」


 戦闘が終わったことでのんびりやってきたエルに、セイネリアはちらとだけ顔を向けてから剣を鞘に納めた。


「だめだな、力が入る事で感覚が狂う。筋力強化系はいらないな」


 確かにいつもより全体的に動作が軽くなるし力は入るが、その所為で手元が狂う事の方がデメリットとして大きい。


「うーん、ずっと使ってれば慣れるんじゃねぇか?」

「どちらにしろ切れた時に感覚が狂う、必要ない。それに体力配分もな」


 アッテラの術の厄介なところは、他の大抵の魔法がそうであるように術者の魔力だけで術を発動するのではなく、術を受ける側の体力も使用するところだ。単純に言えば術を掛けられれば掛けられただけ余分に疲れるという事で、軽い強化程度ではきちんと鍛えている者なら感じない程度の疲れだとはいえ、自分の筋力のみならず体力配分の計算が狂うのはセイネリアにとって嬉しくない事態である。


「まぁなぁ……お前みたく元から力が十分すぎるくらいにある奴だと、そもそもそこまで強化の恩恵もないかもしれねーな……」


 腕を組みながらも少し残念そうにエルは言う。彼としては折角戦士系と組むのだからこちらに補助魔法を使いたかったのだろう。


「通常の戦闘ではいらんが、素の状態で力負けする時や、疲れて力が入らなくなってきたら頼むさ」


 だからそう言えば、エルの表情は明るくなる。


「おう、任せとけ。……って言ってもお前が力負けする場面とか疲れてるとことかあんま想像出来ねぇけどな」


 笑って胸を叩いた後にすぐまたじとりとこちらを睨んでくる辺り、本当に感情が表情に直結している男だと思う。


「そうでもない。谷での戦闘では俺もかなり限界に近かった」


 それは本当の事で、少なくともセイネリアが首都に出てきてから疲労という点ではあそこまで追い詰められたのは初めてだった。それでもエルの疑わしそうな目は変わらなかったが。


「……でも動きが鈍ってたようには見えなかったぞ、誰よりも一番動いてたくせによ、化けモンめ」

「そこは鍛え方が違う」

「けっ、お前アッテラの神官修行がどんだけ厳しいか知らねぇだろ」

「知らんが、現実としてお前より俺は強い」

「あー……はいはい……そうですね、そりゃ間違いありませんよ」


 そこで顔を思い切り顰めて派手にため息をつく彼は、芝居半分、本気半分というところだろうか。


「おいエルっ、治癒頼む、ちとひっかかれた」


 だが脳筋男に呼ばれれば、彼はすぐにいつもの気楽そうな表情に戻って威勢よく返事を返した。


「ほいほい、ったく何も考えず前突っ込むからだ」

「俺が突っ込まなくて誰が突っ込むんだ!」

「あー……まぁいいや、見せてみろ」


 それで苦笑してエルはセイネリアの顔を見ると、じゃぁな、と軽く手を上げて呼んだ男の元へ走って行った。今回のメンバーの中にはリパ神官はいない。アッテラの治癒はリパの術程手軽に使えない為、基本戦闘後に使う事になる。つまり今回は、戦闘中に戦いに支障が出る程の怪我をしない事が前提のパーティだという事でもあった。


「いて、叩くなよエル」

「るっせ、てめぇの怪我はいらねぇ怪我ばっかじゃねぇか」

「そらお前には悪ィと思ってるけどさ……」


 今のところ、このパーティで毎回唯一エルの治癒をうけている男は彼に対してどうしても強く出られない。ガタイのいい大男が冒険者としては小柄な方であるエルに怒られて背を丸める姿は戦闘後のいつもの風景なっていた。

 その様子を見て少し笑ったセイネリアは、さて辺りのかたずけをするかと歩き出そうとして足を止めた。



アッテラの術についてはまたそのうち詳しく。

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