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黒の主  作者: 沙々音 凛
第四章:冒険者の章二
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11・操るモノ

「バラバラに逃げンなっ、集まれっ、こっちだ」


 この声はあの男か――青い髪の神官はまだ無事らしいとそう考え、それでセイネリアも声の方へ向かう事にする。見える範囲にいた人間たちも次々声の方に向かって行く。セイネリアはわざと遅れ気味に向かい、時折足を止めて追ってきた魔物を纏めて狩る、もしくは交戦中の者がいればその敵をさっさと倒してやった。

 見渡せば、パニックは収まり、戦況は多少持ち直してきているといっても良くなっていた。集まっていく連中は逃げ惑うようにではなくちゃんと交戦しつつ下がっている感じで、術を使える連中が補助に回ってそれを助けていた。


 だが……これはただ追い込まれただけだな、とセイネリアは思う。

 敵は周りから襲ってきただけではなく、特にこちらの退路を断つように来た道の方面から襲ってきた連中が一番多かった。その為最初に逃げ惑った段階でどんどん谷の奥へと押し込まれてしまい、今はその一番奥のくぼみになっている場所を拠点としてどうにか体勢を立て直したというところだ。


――群れを操ってる奴がいる。


 動物は勿論、一般的に化け物や魔物と呼ばれる連中はあまり知能が高くない。それがこんな動きをしてこちらを追い込むのだからそう考えるのが当然だろう。知能が高い……おそらく魔法を使うタイプの魔物がいてここの化け物共を操っているとみて間違いない。


 そこで頭上から高い歌声――最初はそう思ったがよく聞けば違う、おそらく何かの鳴き声――まるで笛のように長く響くその音が聞こえたと思うと、化け物たちは急に戦意を失くしたように戦うのを止め、最初に隠れていた木々の中へと退いていった。

 なんだか分からないがともかく戦闘が止まった事で、冒険者たちはその場で安堵の声と共に座り込む。


――操っているのはあれか。


 そういえば、あれに近い音を敵が湧く直前に聞いたかもしれないと思いながら目を細めて空を見れば、鳥のようなものが飛んでいるのがセイネリアには分かった。ただそれはガルカダではない。大きさはガルカダから一回り落ちる程度だが、シルエット的に細身すぎてあの不格好な程下半身がしっかりした鳥とは似ても似つかなかった。


「あれはシーレーンだな」


 座り込む者が多い中、やたらと日に焼けた小柄だがガタイのいい親父が立ったまま空を見て呟くのをセイネリアは聞いた。


「シーレーン? それは海の化け物じゃなかったか?」


 酒場で聞きかじった程度の知識で聞いてみれば、男は豪快に笑う。


「あぁそうさ、普通は海近くの岩場にいる。人間の上半身を持つ鳥だったり魚だったり言われたりもするが、実際はあの鳥の事を皆そう呼んでるのさ。あの綺麗な鳴き声で歌ってよ、それをずっと聞いちまうとちょっと弱ってる奴とか臆病な奴は幻覚が見えてきたりすンのよ。あの歌声聞いちまった所為で座礁したり船同士がぶつかったって話はよく聞くぜ。だからあの声が聞こえたら自信ねぇ奴は耳塞げって言われてンのさ」


 成程この男は船乗りをしていたことがあるのか、とその言い方でセイネリアは納得する。おそらくシーレーンの正体があの鳥というのも、船乗りならば常識で知っている事なのだろう。

 とはいえ、また『厄介なのは樹海の敵ではない』パターンか、と思えば少々ため息をつきたくなってしまっても仕方ない。


 だが――そうして自分もその場に座ったセイネリアだが、やけに周りが自分を見ているのに気づいて……それからその理由に思い至って自分の手にある魔槍を見た。


「これが気になるのか?」


 言えば聞くのを躊躇していた者達から一斉に声が上がる。それは何だ、何故持ってる、どういうシロモノだ――つまり大半はこれが何かを聞いているだけだが。


「見て大方察してる通りこれは魔槍だ。縁があって手にいれられてな、おかげで今回は助かった」


 おぉ、と感嘆の声が上がる。魔法武器というのはあること自体は知られてはいるがまず滅多にお目に掛かれるものではなく、実際それの主になれたものとなればまず見た事も聞いたこともないというのが普通だった。



シーレーン、いわゆるセイレーンの事ですね。この世界には本物の魔物もいますがこういうちょっと特殊な動物を伝説の魔物に当てはめて呼んでるだけ、くらいのも結構います。まぁこの鳥も魔物といや魔物ですが、上半身人間とかではないってことで。

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