69・原因1
聖夜祭が終了した。
結局、ドートーは騒ぎがあった翌日から祭りの後半である2日間――いわゆる『静なる祭り』の間はずっと部屋に閉じこもっていた。おかげで向こうの部屋にもこちらのパーティから警備役を出さなくてはならなくなって、ドートー自身の要望で主にセイネリアが彼の部屋の前につく事になった。彼の護衛であるロッダがいないから仕方ないといえばそうだが、一番の戦力を指定するところからして、彼女より自分の身を優先している訳だとセイネリアは思った。
とはいえ、聖夜祭の間は大人しく仕事を続けていたセイネリア達だが、祭りが終わったからには今後の契約について決めなくてはならない。勿論その時はパーティーメンバー全員が集まる必要があるから、警備の都合もあってルーテアの部屋にドートーが来て話し合いをする事になった。
勿論これは彼女に関係する事でもあるので、最初の紹介の時のようにカーテンも開けて彼女も参加してもらう事にした。内密な話になるから警備兵や侍女は部屋から出てもらったが、魔法使いにはそのままいてもらう。
「ともかく契約は延長だ、なんなら一日当たりの報酬を上げてもいい」
ドートーがそう言ってくるのは分かっていたが、こちらも短期の仕事として受けたのだから期限指定のない延長をすんなり受ける訳にはいかなかった。
「ですから、延長なら期間を設定してくださいませんか。我々は今回の仕事を長期契約で受けた訳ではありません。もし期限を求めない長期契約をしたいのならば別の人間を募集して下さい。それが決まるまでの契約延長、という話でしたらお受けします」
全員揃ってはいるが、交渉は基本的にはディタルが行う。ただセイネリアは彼らの固定パーティーのメンバーではないため、言いたい事があったらいつでも発言してくれて構わないとディタルから事前に言われている。
「他の人間を頼んでそいつらがお前達より使えなかったらどうするんだ?! お前達は今回、これだけの状況で彼女も私も守り切ってくれた、それを私は高く買っている。報酬の交渉も余程の馬鹿な額でなければ応じるつもりがある」
「いえ、報酬の問題ではなく、我々は今回の仕事をずっと続けるつもりはないのです」
「何故だ? 毎回仕事を探して少しづつ稼ぐより、高額な報酬を安定して得られるんだぞ」
「ですから……」
先ほどから互いの主張は変わらずずっと平行線だ。ドートーとしてはとにかく無期限、専任として雇いたいと言っていて、こちらは専任はする気がないから期限を決めろ、という主張だ。
ある程度まではディタルに任せるつもりだったセイネリアも、さすがにこのままではらちが明かないと判断した。
「一つ言っておく。俺は長く専任で雇われていてつい最近やっと解放されたところなんだ。だからまた縛られる生活に戻るのはごめんでな、そっちが期限を決めないのなら当初の契約通り祭りの終了で終わりにしてもらう」
セイネリアの発言で、目に見えてドートーの顔が青ざめる。
「ま、まてっ、お前が抜けるのは困る。お前はロッダよりも強いし、潜入していた者の事をお前は見抜いていたそうじゃないかっ」
「あんたの事情なぞ知るか。ともかく最初の契約通りの仕事は終了した。ここで降りても契約違反じゃないんだ、こちらの好きにさせて貰う」
「だめだだめだっ、いくらだ? いく払えば残ってくれるんだっ」
必死になって椅子から立ち上がったドートーに対して、セイネリアは返事代わりに冷たい視線を送る。暫く赤い顔で震える男を見てから、セイネリアは今度はわざとゆっくりとした口調で彼に聞く。
「あんた、元護衛の男から相当脅されたんだろ? 奴はボンダリーに雇われていた、ボンダリーからの伝言でも聞かされたか? そうだな……彼女をよこさない限りずっと命を狙われるとでも言われたか?」
ドートーの顔が凍り付く。ひ、と小さい声を上げて怯えるその反応を見れば、今言った言葉がほぼ正解だろうというのはわかる。青い顔のままガタガタと震え出した男に、セイネリアは更に言う。
「このままただこちらが護衛として残ったとしても、あんたが狙われる原因がある限りは終わりがない。そんな事に付き合ってやる程俺は暇人じゃない。契約延長をするならディタルが言った通り次の奴が見つかるまでか、根本的な原因を解決するアテがある場合だけだ」
視線だけではなく声も冷たく、突き放すようにそういえば、ディタルはこちらを見ていられずに下を向く。
「どうすれば……原因を解決、など……」
震える声でドートーが呟けば、離れた場所からそれに対する声が飛んでくる。
「原因は私ですね……分かりました」
全員の視線が、部屋の奥に集まった。
このシーンは次回まで。