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黒の主  作者: 沙々音 凛
【番外編:或る女の願い】
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67・リーダー

 騒ぎが落ち着いた、といえばいい意味だけに聞こえるが、実際のところ屋敷の中は騒ぎが起こる前よりも静かになっていた。理由は当然、警備兵が減ったからだが、それにしても廊下を歩いていると昨日までの『屋敷内で警備兵が全く見えない場所がほぼない』という状態と違いすぎて閑散としている印象しか受けない。


「昨日までの感覚からすれば、こんなに警備兵が少ないと不安になるね」


 セイネリアとディタルは部屋に帰るため廊下を歩いていたが、ドートーの部屋には一応警備がいたものの、そこからここまで警備兵に会わなかったのにはさすがに何かいいたくもなったのだろう。


「殺した奴等と捕まえた奴等の分人が減っただけ、とは思えないな」

「今は特に隊長殿が屋敷内の兵を集めてるところじゃないかな。門番とか、特定の担当者以外は外にいると思うよ」

「成程、それでこんなに人がいないのか」


 見た感じ兵の数は半分どころか3割くらいまでに減った感じだが、外に集められているのなら納得だ。


「……それにしても、ドートーは何故あんなに怯えてるんだろう」


 ディタルの歩く速度が遅くなったと思えば、そう呟く声が後ろから聞こえてきた。セイネリアは足を止めて彼の方を向く。


「ロッダに脅されたんだろ」

「だが彼はもう捕まえたじゃないか。それに侵入者は全て捕まえたし、魔法使いもアッテラ神官も捕まえた。これで一安心じゃないのか?」


 確かに状況だけ見ればそう言えるのだが、そもそも根本的な問題が残っている。


「安心じゃないだろ、下っ端をいくら捕まえたところで命令を出してる奴が無傷な限り新しい実行役を雇うだけだ」


 ディタルがそれで状況を思い出したのか表情をこわばらせる。

 そう、確かにやってきた敵を全部片づけたから解決した気になるのも分かるが、実は何も解決していない。今回はルーテアという餌に集ってきた虫を排除しただけで、集る原因を失くした訳でも、虫の発生源をつぶした訳でもない。


「だが……予告では祭りの間と……」

「確かにな。だが彼女を狙ってる連中が祭り期間が終わったからと言って諦める理由はないだろ。あの予告も、せいぜいゲームとして盛り上げるために期限を入れたか、もしくはドートーを焦らせて警備兵をたくさん雇わせるためだったのかもしれない」


 ドートーも期間が決まっていたからこそ臨時で大量の警備兵を雇ってしまった可能性は高い。ゲームを仕切っているボンダリーがそこまで考えていたならかなり頭が回る人物だと思っていいだろう。


「最初から祭り期間限定のゲームだった……という事はないかな?」

「その程度のゲームなら、あの護衛役を1年前から送り込んだりはしないだろ。それに多分、ドートーのあの様子だと、彼女を手放さないと死ぬ事になるとでも言われたんじゃないか?」


 実際あそこでゲーム参加連中の誰かが彼女を奪えたなら、ドートーを殺す気だっただろうとセイネリアは思っている。そのためにロッダはあそこにいたのだろう。

 セイネリアがそこで前を向いて歩きだすと、ディタルも歩き出したのが足音で分かる。相変わらず警備兵がいない廊下を歩いていれば、また後ろからディタルが聞いてくる。


「……そういえば、さっき君は『契約終了に出来るようにしてみる』って言っていたけど、どういう事なんだ?」


 セイネリアは足は止めないものの振り返った。


「ある程度は考えてあるが、まだ言えないな」


 ディタルがそこで足を止めてこちらをじっと見て来たから、セイネリアも仕方なく足を止めた。


「だが、ちゃんとこの状況をどうにかするために考えている事があると思っていいのかな?」

「あぁ、勿論だ」


 即答すれば、ディタルはそこで大きく息を吐いた。


「分かったよ。君がどうにかするというならそれに期待してる。協力出来る事はするから、その時は言ってくれ。他の連中の説得も俺がやる」

「考えているのは確かだが、まだ行動に移せる程やる事が固まっている訳じゃない。それでもいいのか?」

「あぁ、君ならちゃんとうちの連中にとって一番いいようにしてくれるだろうからね」

「随分信用してもらえたものだ」


 少し小ばかにしたように返したのに、ディタルは満面の笑みでこちらに言ってくる。


「君は仲間それぞれの事情を考慮して指示を出し、自分が一番厳しい役を引き受けてる。そういう行動はパーティのリーダーとして理想的だ……見習いたいけど、俺じゃとてもじゃないけど君程の実力がないから無理だけどね」


 ははは、と笑い飛ばした最後の言葉は少し寂しそうであったから、セイネリアも軽く口もとに笑みを乗せて言ってやる。


「俺が見たところ、あんたは今まで見た冒険者達の中では一番パーティーリーダーとして優秀だと思ったぞ。リーダー役は何も一番強い奴である必要はない。戦力なんてのは仲間に補って貰えばいい。頭のない強いだけの人間ならいくらでもいるが、仲間と状況をちゃんと見て判断出来る人間は少ない。あんたはその少ない人間だ、あんたがリーダーとして優秀だから、そのパーティも優秀なんだ」


 言うと彼は少し赤くなって視線を外してから、それでも嬉しそうに笑ってこちらを真っすぐ見てくる。


「今回は君と組めて良かった。ぜひまた機会があれば組んでもらいたいけど、それより君は自分の仲間を見つけてそのパーティーのリーダーになるべきだと思う。君は人の上に立つべき人間だと俺は思う」


 そう言って手を出してきたから、少し呆れはしたものの大人しくセイネリアも手を出して握手に応えた。


次回はルーテアの話。

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