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黒の主  作者: 沙々音 凛
第四章:冒険者の章二
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9・その日まで

「あの隊長さんも悪い奴じゃないんだ、ちょっとやる気が空回りしてるだけでね。折角役職貰ったんだから目に見えた成果を出さなきゃってちょっとばっか焦ってるのさ」


 セイネリアは鼻で笑う。


「成果を上げるというのはそれだけ危険な目にあう事でもある。それを分かってるのか、奴は」

「ははは、確かにそうなんだけどさ、ちょっとはりきりすぎて前が見えてない……んだろうなぁ」

「こういう寄せ集めのごろつきの上なんてのは、力で黙らせるか、基本は放っておいて何かあった時のフォローだけすればいいんだ」


 見せつけるようにため息をついて見せれば、アッテラ神官は意味ありげな顔で唇の端を吊り上げた。


「そうだな、あんたならどっちでも出来るだろうな」


 それにセイネリアが視線だけで返せば、神官はにかりとまた歯を見せて屈託なく笑い、少しおどけたように長棒を横にして首の後ろに通すと、両肩で担ぐようにもって両手をそれにだらりとひっかけてみせた。


「隊長さんが焦ってンのはさ、あんたが術者連中助けたってのを聞いた所為もあンのさ。下が手柄立てて自分が何もないってのが悔しくてな、だからあんたに対して特に言い方がうざくなる訳だ」


 あの男のフォローにきてるのにその言い方は彼もまたあの隊長を『うざい』と思っているという事なのだろう。セイネリアが笑えば、彼もまた笑う。


「まぁそういうことでさ、煩わしいのは分かるけどたまには会議にも顔だしてやってくれや」


 言いながら神官は肩から長棒を下すと、手に持って一度くるりと回して見せた。


「まぁ……重要そうだと思うのには顔を出すさ」

「はははは……ま、そういう訳で俺は会議だから行くわ。あー……もし隊長さんが決めた事が気に入らなかったらさ、こっそり俺に言っといてくれれば機嫌の良さそうなとこでそれとなく言っといてやるぜ。きっとあんたから言うと意固地になって聞きゃしねぇと思うし」


 そこまで親切すぎるセリフには、さすがにセイネリアも眉を寄せる。


「何故お前がそこまでするんだ」


 言われた神官はにかりとまた気楽そうな笑みを返した。


「そんなの当然生き残りたいからだろ。中の人間がギスギスしてれば集団としての戦力は低下する、そうすりゃ生きて帰れる可能性が落ちるのは当然だ」


 その返事が期待以上だったから、自然とセイネリアも笑みで返して彼を見送るために手を上げた。エルは、じゃぁな、と元気よく言って、それから隊長が去った方向に向かって走っていった。


 冒険者の中でも腕っぷしに自信がある連中は、使える術が肉体強化であるのもあって戦神であるアッテラの信徒だという事が多い。だからただの信徒ではなく、厳しい修行が必要なアッテラ神官にはいかつい面倒そうな連中程敬意を払う、というのはよくある話だ。そういう事情と更に生来の人好きする性格もあってか、あの神官は周りの連中の潤滑剤になる事で生き延びてきたのだろうとセイネリアは思う。大勢の人間がいる中であの手の人間は貴重である。個人の能力を足して集団戦力とした場合、彼がいればただの足し算ではなくそれにプラスアルファが出来る。だからこの隊で一番重要なのは隊長よりもあの神官だとセイネリアは考えていた。もし危険な状況になっても出来る限りあの神官は助けた方がいい。アッテラ神官なら一応治癒も使えるだろうことを考えればなおさらだった。


 それに、あの手の男は義理人情に厚く信用が出来る。いくら恩を売っておいても損はなく、繋がりを作っておくのは悪くない。


「……まぁ、その機会があればだが」


 少し先を考え過ぎたなと自嘲しながらセイネリアは呟いた。

 現状、化け物退治は順調過ぎてつまらないくらいで、特に危険を感じるような事態は一度も起こっていない。多少のけが人はいても死者は出ていないし、だからこそあの隊長のように会議だなんだとのんびり言ってられるだけの余裕もある。


 この分だと危険だと警戒していたのはただの杞憂で終わるかもしれないと、セイネリアでさえそう思っていた――そう、その日までは。



ラストの一文通り次からは不穏な展開になっていきます。

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