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黒の主  作者: 沙々音 凛
【番外編:或る女の願い】
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64・救出5

「うぉぉぉっ」


 必死の形相でこちらに向かってきたのはここで捕まっていた連中の一人だ。ふと周囲を見れば、セルパは2人、番人だった警備兵は1人と交戦中で、つまり彼等の手が回らずこぼれてきた者という訳だ。


「邪魔だ」


 自分でも明らかに苛立ちが入ったと自覚出来る声でそう告げて、セイネリアはそいつの剣を受けると同時にその腹を思い切り蹴り飛ばした。

 悲鳴とほぼ同時に、ぐしゃ、とつぶれるような音が鳴って男は壁に叩きつけられる。

 一応死んではいないと思うがぶつかった後に相手の声は完全に消えた。まぁ、死んでいたらそれはそれで構わない。出来るだけ殺さないつもりだが、殺して惜しい者もいない。少なくとも雑魚連中は、邪魔になるなら数を減らす事に迷いはない。

 セイネリアはそこで、まだ起き上がろうとしている者達に向けて声を上げた。


「死にたくないなら黙って寝ていろ」


 それで部屋に静寂が訪れる。セルパ達まで戦闘を止めたのか、剣の音さえ途切れた。だがその静寂を破ったのは、今セイネリアが対峙している男だった。


「はははっ、余裕がないじゃないかっ。貴様も見かけ倒しだな」


 楽しそうに笑う男に、だがセイネリアは冷ややかな目を向けて言ってやる。


「勘違いするな、面白くなってきたのに邪魔をされたのが少しばかりムカついただけだ」

「そんなハッタリ、俺に通じるとでも?」

「ハッタリじゃないぞ、あんたの速さのからくりも分かったしな、風の神の信徒」


 ロッダの顔から笑みが消える。つまり、正解だ。

 彼の足を見て気づいたのは、一歩が大きい事。いや、正確にいえば、足を前に出すと宙を滑るように進んでかなり前に足が届く感じだ。その術はセイネリアも掛けてもらった事がある、風の神マクデータの術だ。


「確かにそうだ。だが、それが分かったから何だというんだ?」

「さぁな……あぁそうだ」


 セイネリアはそこで思い出したように相手に聞いた。


「あんたはここにいる他の連中より立場的に上なようだが、それは雇い主の差か?」


 ロッダは一瞬黙ったが、ふん、と鼻で笑うと答えを返してきた。


「あぁそうだ。俺の雇い主はゲーム参加者ではなくゲームの主催者だからな」


 セイネリアは僅かに口元に笑みを浮かべる――それだけ聞ければ十分だ。

 それからわざと見せつけるように、ゆっくりと剣を構えて見せる。ロッダの笑みは変わらず、向こうも剣を構えると即大きく踏み込み、そこから一気に加速した。滑るようにやってくる男は、だが見えない程速い訳じゃない。最初からその速さだと分かっていれば見失う事もない。セイネリアは腰を落とし、相手が近づくのと同時に更に上体を低くして大きく踏み込み、剣を振る。狙いは、足だ。


「あがぁっ」


 相手の剣先がセイネリアの頭上を過ぎた後、明後日の方に向かって大きく軌道を曲げる。速度が乗った状態で片足が使えなくなった男は、止まる事も出来ずに倒れて転がり壁にぶつかる。鎧の男が石壁に叩きつけられる音が派手に響いてから、セイネリアは立ち上がると振り返って倒れているロッダを見た。


「芸としては面白かったぞ」


 マクデータの速く走る術は足に掛け、足を速くするもの。ならその足を狙えばいいだけだ。というか、この手のウロチョロする敵は足を止めるのが基本ではある。ただ懸念事項として、アッテラ神官から痛覚を切る術を受けてる可能性があった。今のは装備に覆われていなかった太ももを狙って斬りつけてやったのだが、痛覚を切っていたらそれくらいでは止まらなかっただろう。その場合は足の骨を折るくらいはしないとならないかと思っていた。


「さて……」


 あの速度で壁にぶつかっただけあって、倒れたロッダはぴくりとも動かない。装備が装備だから死んではいない筈だが、骨は何本か折れているだろう。

 ロッダが動き出す事がないのを確認してから、セイネリアはまだ動けそうな奴等に向かって一通り視線を投げ、口を開く。


「大人しく寝てるか、武器を捨てて降参すれば痛い目を見なくて済むぞ。戦うなら、いっそ死んだ方がマシと思えるくらいの怪我は覚悟しろよ」


 そこでまた一瞬の無音が訪れ、次にまだ立っていた連中が次々武器を地面に投げた。それを確認してから、セイネリアはもう一人、穴の向こうに向かっても言う。


「で、アッテラ神官の貴様はどうする? 言っておくが魔法使いは既に見切りをつけてこっちに協力してるぞ。ここから一人で逃げようとするより、捕まってた方がいいと思うが」


 すると暫くして、穴の向こうにアッテラ神官の男が手をあげて姿を現した。


ってことで戦闘終了。

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