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黒の主  作者: 沙々音 凛
【番外編:或る女の願い】
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56・本来の役目2

 人数のせいもあって強気なのか、今度の敵は真正面から3人同時にセイネリアに向かってきた。セイネリアはその中でも右、一番来るのが早かった者へ向かうと剣を受けてそのまま押し込んだ。相手は受け止めきれずそのまま派手に後ろへ倒れる。セイネリアは左手でマントの端を掴みしゃがむと同時に宙に放り上げた。残りの2人はマントに阻まれて一瞬だけ足が止まる。その足の位置を翻ったマントの下から確認し、セイネリアは足を伸ばして相手の足を払った。


「うわぁっ」


 すっかりマントに気を取られていた奴が1人、受け身も取れずに後ろへ倒れる。足を払ったと同時に立ち上がったセイネリアはうまく逃げたもう1人を見たが、そいつが大きく後ろへ飛びのいていたのを確認すると転がった男をとどめ代わりに蹴り飛ばした。再び相手の悲鳴が上がる。セイネリアは視線を残った1人に向けながら、悶絶して地面で動けない相手に声を掛けた。


「そのまま寝てろ。死にたくなければな」


 そうして逃げた者に向かって歩いていく。仲間がやられているのを見て、その隙にこちらに攻撃を仕掛けるのではなく怯えて逃げた男は、どこまでも臆病なのかセイネリアの歩みにあわせてじりじり後ろへ下がっていく。

 だがこれ以上は行かせない。

 そこから踏み込んで一気に距離を詰めると、相手の腹を剣でぶっ叩いた。どうやら相手は割合しっかりとした防具を着ていたらしく、腹を抉られずには済んだようだが無事では済まない。言葉にならない濁った悲鳴を喚き散らして地面に転がり、止まったかと思うとそのまま動かなくなった。死んではいないが気は失ったようだ。


「死ねっ」


 そこへ突っ込んでくる者がいた。その剣を避けてセイネリアは一歩下がる。1人かと思ったがその後ろには更に3人の人影が来ているのが見えた。


――丁度いい。


 下がったついでに剣を捨てると、セイネリアは右手を横に伸ばした。すぐその手の中に現れた感触を握りしめ、それで前面を薙ぎ払う。こちらに追撃を仕掛けようと向かってきていた相手は、おそらく何が起こったか分からない間に首から上を失った。

 それと同時にざざっと地面が音を鳴らす。追加でやってきた3人が一斉に足を止めたのだ。セイネリアはそいつらに見せつけるように魔槍を肩にかけて言ってやる。


「悪いがこれだと手加減が難しいんだ。死ぬつもりで掛かってきてくれ」


 相手は明らかに怯えた様子で少しづつ後ろへ下がっていく。だがその後ろからまた人影がやってきたところで足を止めた。来たのは2人、足を止めた3人を通り過ぎて一直線にこちらに向かってくる、が……前の連中を追い越してセイネリアの姿を見た途端に表情が強張る。だがもう遅い、彼等はもう勢いを殺せないところまで来ていた。剣を振り上げたまま止まろうとして止まれず固まった相手の前を、槍の一閃が通り過ぎる。悲鳴を上げる間もなく、斬りかかろうとしていた2人は上半身と下半身が別々になって地面に落ちた。


――まったく、切れ味が良すぎるな。


 だから、手加減が難しい。魔槍を呼べば対多人数の戦闘は各段に楽になるものの手加減が出来なくなるのが問題だ。

 そこへ今度は左右から2人づつ、剣を振り上げて突っ込んでくる者が現れた。それを見て前で立ち止まっていた3人も思い切ったように突っ込んできた。セイネリアはカリンとアードが前の敵を倒し終えているのを確認し、横からの者達は彼等に任せる事にして自分は前の3人に向かって走った。


「う、わっ」


 ただそれだけに驚いて3人のうちの1人が無理やり止まろうとし、止まり切れずにその場で転ぶ。残り2人はそのまま突っ込んできたが、やはり槍の一振りであっさり死体となった。


「うぁぁひぃぃいっ」


 目の前に転がった死体を見て腰でも抜けたのか、転んだ男は座り込んだままずりずりと後ろへ下がろうとする。そのあまりにも情けない姿にはセイネリアもいい加減バカバカしくなった。


「死にたくないか?」


 涙目で男はこくこくと頷く。


「じゃぁ、大人しく転がってろ」


 言って蹴り飛ばした。無様な声をまたあげて相手は転がっていく。そのやりとりだけでかなり気分が削がれてしまったのだが、また新しい敵が見えたから仕方なくセイネリアは槍を構えた……が、別方面から見覚えのある連中が近づいてきて、セイネリアは槍を下した。あれは、ディタル達だ。


「え? おいっ、どうなってんだ?」


 セイネリアを見た途端セルパがそう声を上げて足を止める。どうやらパーティの連中全員で来たらしい。セイネリアは後ろを親指でさして彼らに言った。


「彼女に近づかせないように戦ってる連中はこっちの味方だ、それ以外のこっちにこようとしてる奴の相手を頼む」


 彼等は一瞬、訳が分からず棒立ちで止まっていたが、違う方向から来た服装だけは警備兵の連中と向かい合う事になってまた、聞いてくる。


「つまり、こいつらは敵でいいのかな?」


 ディタルが冷静に連中を指さして言った。それにセイネリアが頷くのとほぼ同時に、向こうの方がディタル達に襲いかかった。だが既に戦闘体勢に入っていたディタル達は焦らない。前に出たセルパとディタルが剣を受け、一歩後ろへ飛び退きながらアンナが矢を放つ。その様子を見て任せて問題ないと判断したセイネリアは後ろを見て、こちらも大丈夫だと思ったから槍を投げ捨て、自分の剣を拾いにいって腰に戻した。


 空を見れば、ようやく夜明けが見えてきて濃紺というより青と言っていい色になっていた。

 明るくなったせいで前よりも遠くまで見えるようになった視界の中に追加の敵は見えていない。それより流石に明るくなったせいで、他の警備兵がこちらに向かってくるのが見えた。


って訳で外での戦闘は終わり。

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