50・偽物達1
暗闇に身を潜めて、セイネリアはカリンとあの女がむかった先の様子を見ていた。傍にはそれまで連中を見張っていたジーナがいる。
予想通り、出て行って暫くは姫君とその騎士様だったろう者達との感動の再会風景を見る事になった訳だが、その後にこっそり近づいてきた連中の様子を見てセイネリアはほくそ笑んだ。勿論、これも予定通りだ。そしてそいつらにあの潜り込んでいた侍女と同じ違和感を感じた段階で、彼らがカリン達の前に出て行った後、その姿がその場にいる連中と同じ事にも驚きはなかった。
おそらく連中はなんらかの手段――魔法だろうが――によって姿を変えているのだろう。
そうであれば侍女の入れ替わりも、他の連中が多数屋敷内に忍び込めていたのも分かる。ただセイネリアはその魔法を使っている連中に違和感のようなものを感じるため、同じ顔が2人ずついたところで本物と間違う事はなかった。
カリンの話でディスティナンと通じている者がユラドの連中の中にいると聞いたセイネリアは、それならそこに彼女を連れていけば必ずディスティナンの手の者が呼ばれるに違いないと考えた。なのでこの展開は想定した通りだが、さすがに出て来た連中がその場にいる連中に化けていたのは想定外ではあった。とはいえ状況的にこいつらがディスティナンの者である事は間違いない。そしてもう一つ、事前に決めてある者の姿ではなくその場にいた人間の姿に変えて出てきたという事は、その術を使った本人――魔法使いも近くにいるという事でもある。へたをするとあの場にいる中の一人がそうであってもおかしくない。
カリン達のもとへ出て来た連中は6人、他にいない事はジーナが確認している。あの場にカリンがいる事と、ユラド側のリーダーくらいは戦力として数えていい事も考えれば楽勝でどうにか出来る数だ。
ここにいる連中は、敵も、そうでない者も利用価値がある。出来るだけ誰も殺さないで済またいところだ。
戦闘が始まって、連中の動きを一度確認してから、セイネリアも動く事にする。
「ジーナ、警備の連中がきたら逸らしておいてくれ」
残る彼女にそう告げてセイネリアは彼等のもとに向かって歩き出した。そうすれば、丁度こちらを向いて逃げようとしたルーテア2人と騎士団員姿の1人と向き合う事になる。セイネリアが見せつけるように剣を抜いて見せれば、そいつらは動けずにその場で固まった。
――剣も抜かないのか。
なら今、彼女を連れていこうとしている2人は戦闘要員ではないという事だ。時間を掛けるのもバカバカしいので、セイネリアはそこから走ると固まったままだった敵の一人、騎士団員姿の男を蹴り飛ばし、それに反応して武器もないのに手を振り上げたルーテアの姿の者――違和感を感じる方――の腹を殴って気絶させた。
それからすぐ、現在交戦中の内2対1で一番分が悪そうなユラドのリーダーらしい男を助ける事にした、という訳だ。
「カリン、終わったなら彼女の傍に転がってる2人を縛っておけ。それが終わったら他の連中もだ」
終わってすぐ、セイネリアはカリンにそう命じた。
先に向こうの2人を縛るように言ったのは、あの2人だけは逃がす訳にはいかないからだった。当たり前だが、こちらが終わった時には既に自分の顔の敵を倒していたカリンは返事をするとすぐに指示された連中の方へ行く。セイネリアが見たところ、十中八九ルーテアの姿をしていた奴が魔法使いだ。騎士団姿の男が倒された後、振り上げたその手付きは杖を振り上げたように見えた。
周囲を見回してみれば、同じ顔同士で戦っていた残りの者――姿はこちらも騎士団員だが――の方も終わったらしい。無事に違和感を感じる方が地面に転がっていた。
「アーネイド、大丈夫ですか?」
ルーテアは、座り込んでいるユラドのリーダーのもとへ走っていく。そういえばカリンから聞いていたユラドのリーダーの名はアードだったか。偽名というよりは単に愛称だろうが、カリンに本名を言わなかったのは、彼の名だけ協力者側が知っているからかもしれない。
「あ、はい、大丈夫です」
と言ってから少し戸惑った表情をしたアードという男に、セイネリアは言ってやる。
「安心しろ、その姫君は本物だ。偽物共は全員地面に転がってる」
それでアードは明らかにほっとした顔をしたが、その彼の傍にいるルーテアはセイネリアに向かって不審そうな顔で聞いてきた。
「これはどういう事なのです? 貴方は分かっているようですが」
「そうだな、予想込みでもいいなら説明してやってもいいぞ」
「……お願いします」
このシーンは次回まで。