49・再会2
――いつの間に?
人の気配は少なくとも4人。ギリギリどうにかなりそうではあるが、いくら警備から死角になっている場所とはいえここで騒ぎを起こす訳にもいかない。周囲の木々の影から人が出てくるに至って、アードは剣を抜いて構えた……が、その出て来た人物達の姿を見て困惑した。
「え? ……何故……何が?」
出て来た人影は6人。だが問題は、それがここにいる者――アードと、カリンと、ルーテア姫と、ツランとホーツとティードル……は騎士団員の姿なのだが――と同じ姿の者が現れた事だ。さすがにアードもそれですぐ、現れた連中が例の魔法によって見た目を変えているのだろうというのは分かったが、厄介な事態になった事は確かだ。
「おい……なんだこれ」
「何ですか、これは?」
他の者も困惑して周囲を見渡す。元からいた者達で固まろうとしてカリンとルーテア姫がこちらにやってくるが、ここで戦闘になったらどれが本物か分からなくなるのは避けられない。だから固まるしかないのだが……。
「ご無礼っお許しをっ」
微かにその声が聞こえて、ティードルがルーテア姫の手を取ったかと思うとその手を引いて周囲にいる連中の方へ走り出した。それならこの連中はディスティナンの者という事だろう。当然アードは姫を取り返すために追いかけようとしたが、それを阻む者が剣を抜いてこちらに向かってきた。彼はその剣を受け止めるために足を止めた。剣と剣がぶつかる……そうして、相手の顔を近くで見て嫌悪感に歯を噛み締めた。なにせ相手は自分の顔をしているのだ。
――これでは連中の思惑通りだ。
見ればツラン、ホーツ、カリン、彼等も同じ顔の連中に襲われて交戦中だった。こうなってしまってはもう味方と敵が判別出来ない。しかもルーテア姫を取り戻そうとしても、その彼女さえ並ばれると本物がどちらか分からなくなる。アードは相手の剣を弾くと声を上げた。
「ティードルっ、お前は我々を裏切ったのか!」
大声は上げられないが、それでもそう言って睨みつける。だが答えは返ってこない。カリンは彼の事を裏切った訳ではないと言っていたが、この状況ではそうとしか取りようがないではないか。返事をする代わりに逃げようとした彼等だが、そこでルーテア姫……の片方が暴れ出した。
「離しなさいっ、どういうつもりですか? ティードルっ」
声は確かに彼女のものであるから、そちらが本物かとアードは向かおうとする。だが、弾いた敵がまた剣を振り下ろしてきて、それを受けたところで今度は2人のティードルの片方がこちらに向かってきた。
「くそっ」
自分と同じ顔の者一人だけなら、剣を受けた段階で脅威になる程の腕ではないと思えたが、2対1になると厳しい。少なくとも、即倒してすぐ追うなんて事は出来ない。
だが、ルーテア姫2人とそこにいるティードル(本物か偽物の方かは分からない)は、逃げようとしてこちらに背を向けたのにいつまでたってもその場から動かなかった。
それどころか、唐突にルーテア姫1人だけを残して2人の姿が倒れたと思ったら、何か大きな影がこちらに向かってやってきた。
――なんだ?
得体のしれない恐怖を感じて思わず後ろに飛びのいてしまえば、自分とたたかっていた方のティードルが文字通り吹っ飛ばされた。何が起こったのか理解出来ない間にもう一人、自分と同じ顔をしていた敵も呻き声をあげるとその場に崩れるように倒れた。
代わりにそこに立っていたのは、最初はただひたすらに黒い影にしか見えず……だがその黒い塊の中開いた目と目が合った事でアードの背が凍り付く。勝てない――見ただけで瞬時にそう感じるくらい、ソレと自分の実力差はありすぎた。
薄闇の中に光る琥珀の瞳に固まってしまえば、ふいにそれは逸らされ、想定外の言葉が聞こえた。
「カリン、終わったなら彼女の傍に転がってる2人を縛っておけ」
「はいっ」
黒い影が月明りの下に出て来て姿を現す。服から装備から黒一色で固めた黒い髪の背の高い男。
カリンの仲間、いや、これがおそらく彼女の言っていた『主』なのだろう――そう理解した途端に全身から力が抜けて、アードは思わず地面に座り込んでしまった。
そんな訳で次回はセイネリア側からの話。