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黒の主  作者: 沙々音 凛
【番外編:或る女の願い】
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42・治癒1

 無事に敵を撃退出来た後、アンナはその敵を縛っているディタル達を手伝っていた。


「爺様、こっちに治癒を頼んでいいかな?」


 ディタルは敵の中でも怪我が酷い者を優先して縛ってから、ゾーネヘルトを呼んでいた。相変わらずいい子ね、なんて思いながらアンナも床で藻掻いている連中を縛る。とりあえず敵全員を縛れば一旦ほっとして、縛っている最中に次の敵がこなかった事に安堵する。ただそこで改めて周囲の様子を確認して、アンナは考えた。


――それにしても、妙ね。


 こちらが侵入者と立ち回っている間に、その辺りのいる筈の警備兵がやってこない。

 ここには屋敷の外だけではなく、中にも相当数の警備兵がいる筈だ。巡回している者もいる筈だし、これだけの騒ぎを起こしていたらあちこちから集まってきていいくらいだ。いくら外で騒ぎが起こっているからといっても中の者が全員外へ出た訳でもあるまいし、周囲もこの状況で静かすぎる。皆どこへ行ったのか。

 ただそう思った矢先に廊下の向こうから歩いてくる人影がいて、アンナは一瞬身構えた。


「何かありましたか?」


 来たのは2人。どちらも一応警備兵の恰好をしている。ただ前例がある分、来たら来たで安心出来ないのが困ったところだ。しかもこの2人とも、アンナは顔に見覚えがない。

 だから彼等を知っているかという意図を込めてディタル達と一緒にこの部屋の前を守っていた警備兵の方を見てみたが、彼は最初こそ警戒した様子だったものの一人は知っている顔らしく、そちらに声を掛けて向こうもそれに軽く礼を返していた。


「賊が来たので捕まえました。彼等の事はそちらに任せていいでしょうか?」

「あぁはい。ありがとうございます」


 とりあえずディタルが対応したところでも向こうは警備兵として普通の反応をしている。捕まえた敵の顔を確認してボードに書き、人数がいる分2人だけで連れていくのはきついと思ったのか、1人は人を呼びに行った。その呼びに行った方が、どうやらこちらにいた警備兵の知った人間らしかったが。


「おや、貴方も怪我をしてるのでは?」


 応援を呼びにいった警備兵を見送ったあと、残った方がディタルにそう声を掛けてきた。見れば確かに、ディタルの腕に何か所か軽い切り傷がある。


「いや、こちらはかすり傷ですから」

「なんだ、怪我したんならさっさと言えばいいだろが」


 未だに賊達の治癒をしていたゾーネヘルトが、顔を上げてディタルを睨んだ。


「いや本当に大した怪我じゃないんだ。爺様はこの人数を治癒をしなければならないんだし、こっちはそろそろ血も止まったから後でいいよ」


 戦闘不能になるための傷を負わせているから、賊達の方の怪我は治癒を入れないと結構ヤバそうなのが多い。だから確かに緊急性でいえばディタルの怪我は後回しでもいいとは言えるが、ぶっちゃけ賊達は死んでも問題ないがディタルの戦闘能力が少しでも落ちるのは困る。


「なぁ~にいってんのよ。軽い傷ならそんな時間かからないんだからちゃっちゃっと治してもらいなさいよ」

「軽傷なら私が治しましょうか? 私はアッテラ神官ですので」


 そういって警備兵が腕をまくってみせる。その腕には確かにアッテラの印の入れ墨が入っていた。

 アンナ達は顔を見合わせる。普通ならお願いしますで終わりだが、今回はこの警備兵が本当に信用出来るかという問題がまずある。しかもアンナはアッテラ神官が敵側にいる事を先ほど聞いたところだから、断るべきだと思ったのだが……。


「では、お願いできますか?」


 ディタルがあっさりそう答えてしまっため内心頭を抱える事になった。一応目で抗議してみたが、彼は治癒に取りかかろうと彼の腕を取った神官に話しかけた。


「アッテラ神官様なら、使える術は治癒と強化ですか?」

「えぇそうです。あとは痛覚を切る事も出来ますが、今はその必要もないでしょう」

「そうですね」


 その会話のあとに、ディタルはアンナに視線を向けて頷いてみせる。つまり、アッテラの術にはそもそも人に危害を加えるものはないから問題ない、といいたいのだろう。あとは彼的に、本物の警備兵だったらここで断ったのなら失礼だと思ったのもあると思う。


 神官様なら賊の治癒を手伝ってください――と言いたくなったアンナだったが、アッテラの治癒術は特性上重傷者向けではないのは分かっている。戦場でも、重傷者にはリパ神官がついてアッテラ神官が軽傷者を見るのが普通だ。


――まったく、普通ならこんな事で心配する必要なんかないのに。


 警備兵のふりをして入り込んでいる連中がどれくらいいるのか分からない、というのはかなりの問題だった。彼女を攫う予告の手紙がきたことでドートーが警備兵を追加したのが裏目に出たと言いたいところだが、今更言っても仕方ない。こうして連中が動き出すまでは、まさか警備兵に賊が紛れているなんて思いもしなかったのだから。

 とりあえずこのアッテラ神官をまだ信用した訳ではないので、アンナは治癒を受けようとしているディタルの様子を注意して見ていた。


「では、力の流れを感じて受け入れてください」


 アッテラの術は術者ではなく対象者の体力や治癒能力を利用するから、術を受ける側が受け入れなくては始まらない。暫くすれば傷が消えていくのが見えて、さすがに治癒術で何か起こる訳がないかとアンナもほっとした。


「終わりました」


 何事もなく治癒は済んで、術者であるアッテラ神官の警備兵が立ち上がる。皆もそれぞれ持ち場に戻ろうとしたのだが。


「え? あれ」


 何故かそこで、立ち上がろうとしたディタルが床に倒れた。



このシーンは次回まで。

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