40・襲撃2
「……で、そいつは大丈夫なの?」
ディタル達と戦っていた敵は確かに警備兵の恰好をしていた。だからアンナは今一緒に入ってきた、共にドア前を警備していただろう兵を睨む。
「あぁ、大丈夫だろう、ずっと一緒にいて敵も倒していたし」
「ふぅん」
それでもアンナが胡散臭そうに見つめれば、警備兵は泣きそうな顔で何度も頷く。確かにここ数日何度か見て知っている顔ではある。まぁまさかの事態になってもいいように、信用しすぎず油断して背を見せたりしなければ大丈夫か。
「それにしても、応援かと思ったら敵の仲間っていうのは?」
「戦闘中にここの警備兵の恰好をしたのがやってきたら応援だと思うだろ」
「まぁ、そうだけど……様子はおかしくなかった?」
セイネリアが見破れたのなら、なにかおかしいところがあるのかもしれないと思ったのだが。
「おかしいってか、やけにのんきに大丈夫ですかぁ~なぁんて言って来たがね」
そう返してきたのはゾーネヘルトで、それでアンナも自分がちょっとムキになっていたのに気づいて、一度大きく深呼吸をした。
それにしても――セイネリアが既に屋敷に入り込んでいる者がいるとは言っていたが、警備兵のふりをしていた連中までいたというのは厄介だ……警備兵がきても敵か疑わないとならないのだから。
「となると、見覚えのある顔とかじゃない限りは疑った方がいいって事かしらね」
だがそう呟けば、ディタルと一緒にドアを押さえている警備兵が焦ったように口を開いた。
「いえっ……顔で判別も出来ません。さっき来た奴ら知ってる顔だったんですっ」
アンナは顔を顰めた。
「えぇ、どぉいう事? 相当前から警備兵として入り込んでたっていうの?」
「さぁ……うわっ」
何か大きな質量あるモノで叩かれたのか、ドアが大きく跳ねた。すかさず老神官が言ってくる。
「よし、いいか、ドア開いたら皆目を閉じろよ。アンナ、お前さんはお嬢ちゃんを連れてバルコニーに出てろ」
そこまで聞けば、彼が何を考えているかくらい分かる。アンナは即座にカーテンの向こうへ行くと、侍女とルーテアに言った。
「外に出てて、いざとなったら下へ逃げるのよ」
そうして窓を開け、バルコニーに出たものの……下からも戦闘音が聞こえてきてアンナは舌打ちした。ただ覗いて下を確認する余裕はない、アンナは声を上げた。
「ねぇ、そっちに彼女がおりてっても大丈夫?」
返事はすぐに返ってきた。
「あぁ、もう終わる、大丈夫だ」
それは確かにセイネリアのもので、こちらに聞こえるよう大声ではあったが声自体は落ち着いていて冷静だ。あの男が大丈夫だというのなら何があってもどうにかするでしょうと彼女は判断した。
「いい? 降りてって言ったらそれ使って降りるのよっ」
そう言ってバルコニーの手すりに縛り付けた布を彼女に渡すと、部屋に戻ってカーテンの方に向かう。
ドアの向こうから叩く音は更に大きくなっていて、時折木が割れるような音も混じっている。そろそろ限界だろう。
「離れろ」
ディタルの声が聞こえる、それと同時にひと際大きくドン、とドアが叩かれたかと思えば、直後にそれが開いて壁に叩きつけられる音が響いた。それに老神官の術の呟きが重なる。
「神よ、その慈悲の尊き光を我に――」
光が部屋を包む。
分厚いカーテン越しであるからアンナは光をマトモに見ずに済んだが、光が消えると同時にカーテンをくぐって弓を構えた。
まず、開いたドアの先、入口に立って間抜けに目を抑えて騒いでいる男の肩を撃ち抜く。それをディタルが突き飛ばして廊下へ出ていく。彼の姿は見えなくなるが、向こう側で声が上がった。その後も戦闘音と怒号、悲鳴が聞こえてくる。敵の目がおかしくなっている間に、ディタルが相手を戦闘不能にさせているのだ。
そんな中、アンナは矢を構えた体勢でピクリとも動かず開いた入口を見ていた。
そうして、ドア前を警備兵の姿が通り過ぎるのに合わせて矢を放つ。それはそいつの足に当たったようでそのまま男は床に転がった。そこにディタルが現れて床に落ちた武器を蹴り飛ばす。その彼に後ろから向かおうとした兵が見えたから、アンナはそいつを射る。矢は兵の腕に刺さり、悲鳴が上がるのとほぼ一緒にディタルがそいつを蹴り飛ばした。そのままそいつを追ってディタルは姿を消した。
派手な戦闘音が止む。
少し待てば、ディタルが開いたドア前に現れて手を振ってきた。
「終わったよ、縛るのを手伝ってもらえるかな」
アンナはそこで安堵と共に笑みを浮かべた。そうして弓を下す。
「お疲れ様ぁ、今行くわ」
次回はセイネリア達の方の話になりますが、戦闘は短いです。