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黒の主  作者: 沙々音 凛
【番外編:或る女の願い】
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39・襲撃1

 今日の夕方、休憩から帰ってきたディタルから、アンナは今夜の本式典開始の鐘と同時に連中が動くという話を聞いていた。情報の出所はあの黒い男だそうだ。あの男がこんなぎりぎりで言ってくるのだから信憑性は高いだろう。

 更に言えば、事前に全員の話し合いで、あの男から今回ルーテアを狙っているのは特定の連中だけではなく複数勢力がいるという事も聞いている。だから本式典の鐘と同時に全員がやってきて撃退すれば終わり、という訳ではない事も理解していた。


――つまり、まだ全然油断出来ないってことよね。


 護衛対象であるルーテアにも本式典の鐘が鳴ったら始まる事を伝えておいたから、鐘から間もなく騒ぎが起こった段階で彼女はバルコニーに出て行って歌を歌い出した。アンナは護衛として矢をすぐ撃てる体勢で彼女の後ろに控えていたが、下で騒ぎが起こった事で彼女を下がらせた。幸いそいつらは下の連中が撃退してくれたが、これで終わったと思ってはいけないという事だ。


「侵入者は……まだ、捕まってはいないの、ですね?」


 外を眺めていたルーテアがそう聞いてきて、アンナは答えた。


「そうねぇ、まだ外の連中がバタバタ動いてるから捕まってはいないと思うわ」


 明らかにルーテアはそれに安堵した顔をした。


「さっきの連中はどう見てもヴィンサンロアの信徒だから貴女の国の人じゃぁないのは確かね。未だに捕まらない、こちらに来てもいないなら、歌を聞いて帰ったんじゃぁない?」

「だと……いいのですが」


 そうであってほしいけど――と心で呟きつつ、そこで廊下から大きな音が聞こえてきてアンナは顔をそちらに向けた。


「何でしょうか?」

「貴女は窓の方へ、いい? いざとなったらあれに掴まって下に降りるのよ、大丈夫?」

「はい、子供の頃に同じ方法で部屋を抜け出した事がありますから」

「そう、なら安心ね」


 彼女には窓の前に残るよう手で制してから、アンナはドアの方に向かった。ドアの向こうでは剣がぶつかる音がする。確実に敵が外にいるのだ。


「ディタル、大丈夫?」


 ドアにぴったりくっついてそう声を上げれば、ディタルの代わりにおそらくドア前にいるゾーネヘルトが返してくる。


「敵は2人、応援も来たし大丈夫だ」

「そう」


 アンナは安堵の息をついた。

 いつもならこういう時にはセルパがディタルの傍にいるが、今ディタルの傍にいるのはゾーネヘルトとここの警備兵だ。警備兵達の中でも腕のいい人間らしいが、能力的な問題はおいておいても慣れた相方でないだけでディタルにとってやり難いだろう。

 アンナはドアに耳を付けて外の音を探る。

 戦闘音と、その合間にゾーネヘルトが指示を出したり術を使う声が聞こえる。ディタルの声もたまに聞こえるが、そこまで切羽詰まった声ではないから大丈夫そうだ。

 だが、そう思った矢先。


「アンナ、鍵あけておいてくれっ、3度叩いたらドアを開ける」


 老人の声は緊張している、しかも声の近さからするとドアにぴったりくっついて小声で言っているのだろう。アンナはそれで意図を察した。鍵を開けると即座に大きく後ろへ飛びのいて矢を番え、弓を構えた。

 ドアが鳴る、ノック程の軽さでゆっくりと、トン、トン、トン。最後の音が聞こえて即、ドアが開く。迷う事なくアンナはすぐ目に入ってきた敵に向けて矢を放った。


「うわぁ」


 矢は敵の肩に刺さる。

 すぐに続けて2射目、3射目。

 そこでゾーネヘルトと警備兵、ディタルの3人がしゃがみながら中へ入ってきてドアを締めた。アンナはドアから廊下が見える間、矢を放ち続けた。ドアが閉まれば弓を肩に掛けて自分もドアを押すのを手伝う。鍵を締めて一息つくと、ドアを背中で押さえたままディタルが口を開いた。


「応援に来た連中が賊の仲間だったんだ。爺様がすぐ気づいてくれたから良かったけど、外には今5人いる」

「一人は肩近くにあてたから多分もう戦えないわ」

「となると4人か……」


 勿論その間もドアは向こう側から叩かれている。このドアは木製だが鉄で補強が入っているし木自体もかなり堅いものだから剣で叩いてもそう簡単には壊れない筈だった。


このシーンは次回に続きます。

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