6・懐かしい相手
「まったく、せめてもう少しマシなのはいないのか」
と、呟いたところで、少し後方で騒ぎが起こった。大きな羽音と叫び声、今回は人間の悲鳴が聞こえてセイネリアは即そちらへ向かって走る。
そこは丁度木々が途切れた空が見える場所で、休憩をしてた連中が空から巨大な鳥に襲われたらしい、だが――。
「随分と懐かしいじゃないか」
巨大鳥と冒険者たちが必死の攻防を繰り広げている緊迫した場面に、セイネリアは笑いながらのんびりそう呟いた。なにせあの大鳥には見覚えがある、アガネルの弟子だった時代に倒したガルカダだ。ただセイネリアが倒したのはまだ若くて小柄な奴だったがそいつは完全な成鳥で、大人の人間一人を簡単に捕まえてお持ち帰りしようとしているところだった。
そこで一瞬、背にある弓を取るかと考えたセイネリアだったが、本職の連中が放つ矢がガルカダに幾本か飛んでいくのを見て剣でそのまま走りだす。
「助けてくれっ」
掴まれた男が叫んでいる。どうやら傍に機転が利く者がいたらしく、そいつが縄をガルカダの足に引っ掛けたらしい。その所為で獲物を捕まえたはいいものの化け鳥は飛び去る事が出来なくなっていたのだが、それでも近づくのはその立派な足と嘴の攻撃を考えれば危険すぎて周りはつっこむのを躊躇している、という状態だった。
その中で、セイネリアは迷わず剣を前に出し、体勢を低くしてつっこんだ。
「慈悲深きリパよっ、光をかの者の盾にっ」
リパ神官がいたのか、盾の呪文がセイネリアを包む。これは一回だけ相手の攻撃を無効にする防御呪文で、判断の速さからすると相当『こなしてきた』術者だろうなとセイネリアは思う。
「――よっ、彼の足にその加護をっ」
そちらの呪文は分からなかったが、直後に強い追い風を感じたからこれは風を起こす術か何かなのだと思われた。
最初から援護なぞアテにしていなかったがあって困るものではない。有り難くそれらの効果を借りてセイネリアは走る。ただ一点、人を掴んでいる方の化け鳥の足の付け根を目指して。
鳥の耳障りな悲鳴が響く、狙い通りに男は放りだされる。
手ごたえで剣が刺さったのが分かったセイネリアは、そこで即、剣から手を離すとガルカダから離れた。
セイネリアは耳を塞いで鳥の顔と逆方向へ走る。ある程度の距離にくれば走りながら背の弓を取って、腰にくくりつけてあった矢筒から数本の矢も取ると同時に振り向いた。そうして、離されたものの地面で腰が抜けたようにうずまっている男を再び捕まえようとしている大鳥の足に向けて矢を放った。
一本、二本……セイネリアが体格から想像するような大弓ではなく割合手頃なサイズの弓を持ち歩くのはこちらのほうが連射が利くからだ。とはいえその分威力が落ちるのは確かで、矢は二本とも暴れるガルカダの足で叩き落とされた。だが三本目の矢を放ったところで矢が燃える。火の神の術者あたりの所為だろうが、さすがに火に驚いたガルカダは男を掴もうとするのをやめて逃げようとし――いい具合に木に固定されていた縄を誰かが切った事でそのまま飛び上がり、化け鳥は高い空へと逃げていった。
三十月神教なので神様は三十人。信徒は軽い術が使えて、神官はもちっと高度な術が使えます。魔法使いの冒険者もいますが滅多に仕事に参加する事はないです。なので冒険者にとって術者扱いは基本は神官か術が得意な信徒さんです。そんな訳で戦闘時の魔法といえば戦闘補助の魔法ばかりです。




