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黒の主  作者: 沙々音 凛
【番外編:或る女の願い】
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35・影の敵1

 セイネリア達がいる場所は門から見れば建物を挟んで向こう側になるため、門での騒ぎ自体は聞こえてはこなかった。だが、建物の向こうが一瞬とはいえ明るくなって、その後に庭を巡回していた兵達が走っていく姿をみれば、そちら方面で何か起こったというのは当然分かる。


「し、侵入者、かっ」


 やけにぎこちなくセルパがそう言ってこちらを見て来た。余計な事はいうなとディタルに言われていたせいなのか、とうとう来たかという気持ちを抑えているその顔はやけに緊張に固まっていた。

 セイネリアとしては大丈夫かと不安になるくらいだが、溜息を吐いて彼に返す。


「かもな。だが俺達は持ち場を離れる訳にはいかないだろ」


 例の者はまだ影で身をひそめている。こちらが動かないからさぞやきもきしている事だろう。更には兵達が走り回る音に紛れているが、兵達が向かうのとは違う方向……こちらに近づいてくる複数の足音があるのに気づいた。


――これだけ音を立ててるなら、たいした相手ではないな。


 少なくとも気配を消して隠密行動が出来るレベルの人間ではない。それならセルパでも相手が出来ると思われた。

 そこでダン、と急いで彼女が出て来たのか、上の方で窓を開ける音がした。

 すぐ、歌が聞こえてくる。

 いつもより大きな声を出しているらしいそれは、ほぼ真下にいるセイネリア達には良く聞こえた。ただ、歌が聞こえ出すと同時に、ずっと潜んでいた気配が動いた。直後、月明りの下にその姿が現れる。


「セルパっ、後ろだ」

「うぉっ」


 セルパを襲った銀色の軌道は彼の剣に止められた。すぐにセルパは襲ってきた短剣を弾き飛ばしたが、相手も後ろに飛びのいたらしく地面に綺麗に着地した。動き的には思った以上に出来る。気配を消し切れてないところからしてたいした腕ではないと思ったがそうでもないらしい。

 勿論、即座にセルパの剣が追撃をかけた。相手は避けて逃げる、剣は追う、相手は逃げる……そうやって相手はセルパを影のある方へと誘導しているのにセイネリアは気が付いた。


「セルパ、追いすぎるなっ」


 言えば彼は気づいて足を止めたが、そこに別の人間が現れて斬りかかっていく。ただセイネリアも即彼を助けにいく訳にはいかなかった。その後に続いて2人現れ、そいつらはセイネリアに向かってきたからだ。

 舌打ちをして、長剣で敵がきた方面を薙ぎ払う。剣はぎりぎり当たらなかったが、これは最初から相手に当てるつもりはない。相手は足を止める、それに向かってセイネリアが踏み込んで、僅かに距離的に近かった方に剣を伸ばした。この状況だ、まずは敵の人数を減らしたいから殺すつもりで腹付近を狙った。

 剣が深く肉に食い込む手ごたえが返る。どうやら相手は軽装だったらしく、硬い防具に当たった感触はなかった。ただこのまま深く入りすぎると邪魔になるから、すぐセイネリアは剣を払って死体を捨てた。

 それにはさすがに怯んだのか、もう一人は更に後ろに引いてセイネリアから距離を取る。影方面にいこうとしている辺り、この男もヴィンサンロアの術が使えるのかもしれない。


――姿を消すとは言っても、見えないだけで存在してない訳じゃないだろ。


 あえてセイネリアは追いかけてやった。案の定、そいつは木の影に逃げ込むと姿を消した……確かに、姿自体は消えた、だがセイネリアにはそこにいるのが分かった。

 剣を振り落とす、悲鳴が上がる。消えた筈の男の姿が現れて倒れた。まだ生きてはいるがどう見ても致命傷だ。2人目は殺さないつもりだったから、姿を消さなければ死なずに済んだろうよと思いつつセイネリアはセルパを見た。彼はまだ2人の相手をしていた。ただ助けるべきかは少し考えた。


――おもしろいな。


 言われた通り、深追いせずにその場でセルパは2人からの攻撃をしのいでいた。その様がなんというか……余裕、というのとは違うが、相手の武器が当たりそうにも見えなかった。2人がかりなのだから当然向こうの方が手数が多いのだが、セルパは出来るだけ動かないようにほぼその場に立ったままで、避けるか受けるかだけでどうにかしている。おもしろいのはそれが相手の動きを見切っているというより――感覚だけで本能的に動いてる感じなところだ。

 たださすがに攻撃する余裕はないため防戦一方になっているから本来はさっさと助けた方がいいのだろうが……避けた敵の剣先を追う目といい、剣を弾いて舌なめずりをする様といい、明らかに彼が『楽しそうに』戦っていて、賊共の方が焦っている様子だったので手を出すかを考えたのだ。

 なにせこのまま放っておいても体力と集中力切れを起こすのは敵の方というのも見えている。さて、どうするかと思ったところで、どうやら2人のうちの1人がこの状況に耐えられなくなったらしい。

 一旦大きく後ろ――建物とは反対側へ引いたかと思うと、腰から投擲用のナイフを取り出した。

 だが、そのナイフが投げられる事はなかった。投げようと構える前に、そいつの腕を矢が貫いた。すぐに二撃目も来て今度は足に当たる。反動でそいつは倒れた。相手が一人になったせいで余裕が出来たのか、残りの一人もそこからセルパが足で蹴り飛ばして地面に転がった。


矢は上からです。

次回はこのシーンの続き。

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