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黒の主  作者: 沙々音 凛
【番外編:或る女の願い】
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34・開始

――まさか、こんな手で屋敷に入るとは。


 全く見覚えのない顔となっている部下達を見て、アード――本名はア―ネイド・レス・デ・ディンガロは不気味さに顔を思わず顰めた。魔法というものが生活に普通に使われているこの国には多少は慣れたものの、魔法使いというものは基本一般人と関わる事はないと言われていたのもあって詳しい事は何も知らない。ただ神官が使う魔法とは違って、何が出来るかはその魔法使いによって違うという事だけは知っている。とりあえず彼等のいう魔法とやらで、姿を騎士団の人間に見せる事ができているらしい。ただし、そのものを変化させたのではなくあくまで見た目を変えただけだから、触ったらすぐバレるという事だ。


『大丈夫ですか、痛くありませんか?』


 アードの綱を持っていた部下、ツランが小声で聞いてくる。この男はこの国に連れて来た部下の中では一番気弱である。ただ背があって威圧感が出るだろうという事でこの役に選ばれた。彼に関しては信用の上でも問題ない。


『あぁ、大丈夫だ』


 答えれば、同じくこちらを心配そうにちらちら見ていたホーツが頷いた。彼とは付き合いが長い、彼も信用していい筈だった。それからすぐ残りの1人、先頭に立って歩いているティードルがやはり小声で言ってきた。


『そろそろ向こうから見えます』


 あぁ、とそれに返事を返しながらもアードは彼の発言を聞くたびに気持ちにもやが掛かるのを抑えられなくなる。なにせ彼はディスティナンと通じている。あの時隠れて聞いた声は確かに彼だった。


 門の前につくと、門番が姿勢を正して礼を取る。そこからはボンダリーからの使者に言われた通り、アードの次にクリュースの公用語がうまく使えるティードルが前に出て対応した。


「第四予備隊のグロワ・クナッセだ。怪しい者を見つけたので捕まえたのだが、どうやらここに侵入しようとしていたらしい。ここの主人に取り次いでもらえないだろうか」

「あ、はい。今すぐ旦那様に知らせてきますっ」

「実はこいつの他にも何人かいたようなのだが、逃がしてしまった、申し訳ない」

「分かりました、旦那様にはそれも伝えておきます」

「頼む」


 今のところ疑われてはいないようだ。門番2人のうちの1人が急いで屋敷の中へと入っていく。残った者の方がこちらをじろじろ見てくるから、アードは顔を下にむけた。


――どこかで逃げるべきか。


 協力者である向こうが言っていた計画に沿うなら、このまま屋敷の中、少しでも目的の部屋の近くまで行ってから案内を倒して逃げる事になっている。だが、そもそも屋敷の中まで入るのはマズイ。あのカリンという人物から屋敷の中は勿論、外では絶対に裏庭の建物沿いにある石畳の道より建物寄りには行くなと言われていた。……そこまで行ったら命の保障はない、と。

 みたところ門を入ったら次に見える警備兵は建物前の2人。門から建物までの道周辺は隠れられるようなところがない。ただし、敷地を囲む塀沿いか、建物の裏へ回れば隠れられそうな木はある。目的の部屋は右から回り込んで裏庭に行った方が早いから、逆に左側に逃げるべきか……考えている間に主人のところへ言っていた門番が帰って来て、門が開けられた。


「旦那様が連れてくるようにとの事です、中へどうぞ、ご案内します」

「取り次ぎ、感謝する」


 主人へ連絡に行った門番が案内として前を歩き、アード達は中へと歩きだす。アードは俯きながらも周囲を見て、逃げるならどこへ行くべきか、どのタイミングで逃げるべきかを考えていた。

 一歩、一歩、建物に近づく度に今行くべきか迷う。

 縛っている縄はすぐ解けるようになっているから、まずは前を歩く案内の兵を倒して、それから3人に声を掛けて左に走る、いやここは2手に別れたほうがいいだろうか。それなら、逃げるタイミングは門番と、建物の扉前にいる兵両方から一番遠い中間地点か……。

 仕掛ける場所を決めて、その位置をじっと見つめる。近くにいる3人に、逃げるぞ、と呟いたところで、辺りが急に明るくなった。


 警備兵達の悲鳴が上がる。光は後ろ、門の方からだ。

 アードは咄嗟に振り向こうとした仲間達にぶつかっていくと怒鳴った。


「振り向くな、逃げるぞっ」


 どうせ自国の言葉はここにいる人間には分からない。

 すぐに察したディードルが前にいた兵の頭を叩いて倒した。その間にアードは藻掻いて縄を外す。ツランとホーツはそれを手伝ってくれた。

 完全に光が収まってから振り返れば、そこには門番を倒して立っている女性の姿があった。それがカリンだと分かったアードは、傍にいるツランとホーツの服を掴んで走り出した。


「こっちだ」


 幸い、建物前にいた兵は光をまともに見たのかのたうち回っている。ただ侵入者だと大声を上げているのですぐに兵が集まってくるだろう。音の来る方を避けて、アード達は屋敷を囲む塀の方に向かった。そちらには木が植えてある、そのまま木に隠れながら外周沿いに進んで目的の部屋が見えるところまで行くつもりだった。


ユラドの連中が侵入して騒ぎが起こったところで、他の連中が動き出します。


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