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黒の主  作者: 沙々音 凛
【番外編:或る女の願い】
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33・どうするか

 カリンは闇の中、眼下に見える人影が動き出すさまを確認して立ち上がった。手に持っていた鏡を動かして仲間に合図を送り、カリンはそのままドートーの屋敷に向かうアード達の後をつけた。


――もうすぐ本式典開始の鐘が鳴る。


 アードが支援者であるボンダリーに不信感を抱いた事で、結果的にカリンは彼からの信頼を勝ち取れた。

 それからの話は早い。

 決行日を教えてくれたので、まずカリンはそれだけを急ぎでセイネリアに知らせた。

 ただそこでアードが今回の計画自体を中止すると言い出したので、それを思いとどまらせるのに少々苦労した。彼としても独断でいきなり中止と言えば仲間が納得しないだろうし、カリン側としても折角彼女を攫おうとしている連中をまとめて諦めさせるチャンスを逃す事になる。それにそもそも、ここで利用されている事に気づいているとボンダリー達に知らせるのは彼等にとって危険でもある。

 そう説得した訳だが、このあたりは本当に真面目な人間というのは面倒くさいとカリンは思った。真面目過ぎる人間というのは、目的を果たすためにどう動くのが一番良いかと考えるより先に、どう動くのが一番正しいかと考えるからだ。


 街の屋根や建物の影から影に、気配も消して、音もたてず、カリンはアード達を追いかけていく。こういう仕事はボーセリングの犬としていくらでもやらされていたから、人の目を引く役をやるより余程やりやすい。というより、慣れた状況に置かれると頭で考える必要もなく動ける。集中しようとか、感覚を研ぎ澄まそうとか、意識しなくても体が動く。


――あれは……魔法使い?


 アード達が向かう先、ボンダリーから指定されたという待ち合わせ場所には3人の人影があった。3人ともがフード付きのマントで姿を隠しているが、その中が一人が杖……としては小さいがそう見える物を持ち上げたのが見えた。

 彼から聞いた話では、ドートーの屋敷に入る手段は支援者であるボンダリーが用意してくれる約束で、聖夜当日、本式典の鐘が鳴るまでに待ち合わせの場所へ行く事になっているとの事だった。


――魔法使いの協力者がいる……のか?


 主も可能性はあると言っていたから想定外ではないが、奴らが関わってくると不確定要素が大幅に膨れ上がってしまうのが問題だ。なにせ魔法使いは何が出来るか分からない。というか魔法使いという要素が入った段階で『何が起こってもおかしくない』と考えなければならなくなる。


 そこで、大神殿から本式典開始を告げる鐘が鳴った。

 丁度アード達が、待っていたボンダリーの手の者達と合流した。


 カリンは彼等を見ながら考える――ここで一番起こったら困るのは直接彼女の部屋近くまで彼等を飛ばすような事で、普通ならあり得ないがあれが魔法使いなら全否定はできない。この警備の中だと、予定が変わった事を主に知らせるためにカリン自身が侵入するのも難しいだろう。

 ただ、それはどうやら杞憂に終わったらしい。

 連中と少し話した後でアード等6人は横に並ばされていた。そこから一人づつ、魔法使いらしき人物が何かを手渡し、それから杖を出して……おそらくは魔法をかけた。今度ははっきり、杖が見えた。暗い上に遠目だったから最初は何が起こっているのか分からなかったが、2人目が終わったところでカリンはある事に気が付いた。


――恰好が変わった?


 一人目が終わったあとから違和感は感じていたが、明らかに服装が変わっている。というか、目立たないよう一般的な冒険者に見える恰好をしていた彼等は、銀色の鎖帷子にサーコートを着た――あれは多分、騎士団員の恰好――になっていた。

 瞬間的にカリンの頭には、服装を変える魔法だろうかという考えが浮かんだが、それよりはおそらく姿そのものを変えて見せる魔法ではないかと思い直した。次々と同じ格好――騎士団員の姿にしていくのを見るに、騎士団員のふりをして中に入れて貰おうという事なのだろう。

 ただし、魔法使いは6人のうちの半分の3人までしか魔法を使わなかった。残りの3人は元の恰好のままで……更に見ていれば、その3人のうちの1人を縛り始めた。しかもどうやら縛られたのがアードらしい。

 ここまで見れば、彼らがどういうつもりなのか予想はつく。アードを騎士団員が捕まえた事にして中に入るつもりなのだろう。

 尚も見ていれば、残った姿を変えないままの2人を残して、見た目だけなら騎士団員の3人がアードを連れてドートーの屋敷、正面門へと向かっていく。


 カリンは彼等を追いながら考えた。

 『彼女』を狙っている連中は、アード達を囮にしようとしている。ならば騎士団員のふりをして中に入ったアード達が本当は騎士団員ではない事をどこかでバラす段取りになっている筈だ。

 ここでカリンにとって最悪の事態はアード達が建物に入ってからバラされる事で、これだと逃げるのが相当困難な上に、逃げられても歌を聞く余裕もなく捕まるか、逆に捕まらなかった場合に部屋まで行ってしまう可能性もある。また、建物に入ってからでなくても入る直前にバラされた場合も、建物入口の警備兵がすぐ来る分逃げきれなくなる可能性がある。


 なら、どうするか。


 今まさに、アード達一行は門番との交渉中で、彼等は中に入ろうとしている。

 カリンは考えた。そうして一つの結論を出すと同時に行動した。


次回は切り替わってアード側から。

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