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黒の主  作者: 沙々音 凛
【番外編:或る女の願い】
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28・追跡者2

「私も、つけられていることは分かっていました。ただまさかあんなにいるとは思っていませんでしたし、それこそその中に仲間がいる事など……本当に、彼らが裏切るなんて……」


 唇を噛み締めて拳を強く握りしめるアードは、部下の裏切りが相当なショックだったのだろう。彼のような男なら当然の反応だ。


「裏切ったというのとはおそらく少し違うと思います。彼らが囚われの姫君を助けたい気持ちは本物でしょう、ただ助ける方法について考え方が違うだけだと」

「どういう事です?」


 カリンがセイネリアに言われてわざと目につくようにユラドに関する話を聞いて回っていたのは、例の彼女を狙っている勢力をあぶり出すためである。カリンをつけてきた者達、アード達を見張っている者達、それらを見つけるたびにそれぞれどこの手の者かを調べた。

 王女を狙っている勢力は複数ある――主は最初からそう見ていた。


「貴方の仲間がついてる内、一つはディスティナンの者です。どうやら姫君を助けた後、ディスティナンの人間と婚姻関係を結ぶ方がいいと言われているようです。もう一つはクラット商会の関係者のようです、こちらも商会の方でいいようにしてくれると言いくるめられている感じです。だから裏切っているつもりはないと思いますよ、2人とも」


 目の前の男は頭を押さえてまた溜息を吐く。彼としては怒りは多少収まったものの、部下が馬鹿な行動を起こす前に自分に相談してくれなかった事を嘆いている感じだろうか。


「実を言うと他にもあと2勢力程彼女を狙っています。どうやらドートーは姫君を国に連れ帰った当初、商人仲間数人に見せたらしいです。その後その商人仲間達から売ってくれと持ち掛けられて以後、警備を厳重にして他の者に見せなくなったようです」


 そんな事情があったからドートーは船に乗って彼女から長期で離れる事が出来なくなった。首都の屋敷を買い取って住む事にしたのは、リシェだと他の商人達の手がまわりやすいと思ったのかもしれない。


「成程、実は私も国にいる時からディスティナンの者に同じ話を持って来られていました。ただあの国の人間は我が国を下に見ているので、最終的には我が国を吸収するつもりだと分かっていましたから……」


 悔しそうにそう呟く彼は、さすがに下っ端ではないだけあって国の状況を良く分かっている。それにここまで話してくれたという事なら、こちらの事は本気で信用してくれたと思ってもいいかとカリンは思った。


「とりあえず、どの勢力にも共通しているのはあなた方を利用するつもりだという事です。皆、あなた方を囮にして、彼女を手に入れるつもりです。だから皆、あなた方の動きを監視していたのです」


 アードはそこで下を向いて黙る。感情的にも、自分達の状況的にも、彼の中でまだいろいろ整理がついていないのだろう。その彼に、カリンは改めて尋ねてみた。


「では……現状を理解していただいたところでまず、聞いてもよいでしょうか? あなた方はどうして姫君を助けだそうと思い立ったのでしょう?」


 相手はすぐに答えなかった。

 暫くは聞かれても下を向いたまま何かを考え、それから顔を上げたものの目を閉じて苦し気に答えた。


「ルーテア様が……ドートーのもとで彼の部下達の慰み者になって……いると……」


 カリンは眉を寄せてすぐ聞き返した。


「ドートーはもともと彼女に求婚していたと聞いています。それでそんな扱いはあり得ないのでは?」


 確かにそれが本当なら彼等の気持ちもわかりはするが、それでもそんな簡単に信じるだろうか。


「それは……ルーテア様が頑なに拒絶して、怒ってそう、なった、と……それを言ってきた人間が、直接見たと言っていたものですから……」

「つまり、それを教えてくれたのがあなた方の協力者という訳ですね」

「そう……です」


 それなら話が早い。


「その協力者が、彼女を救うなら聖夜祭の間が良いといったのではないですか?」

「……そう、です。警備隊や騎士団がやってこられないから、と……」

「紅の西風団、という言葉はご存じですか?」

「それは、向こうが我々と連絡を取る時に使う、隠語としての我々の名称です」


 これは完全に確定だろう。カリンはアードをじっと見つめると、強い声で聞いた。


「では、ドートーのもとに、その紅の西風団から聖夜祭の間に姫君を攫うという手紙が届いているのを知っていますか?」

「え?」


 完全に驚いた彼の顔は、そのまま否定の返事となる。ならばあとは最後の一押し、彼の信用を勝ち取るために最後の情報を渡す事にする。


「その手紙があったからこそドートーは警備を強化して冒険者を雇いました。その雇われた冒険者の中に私の主がいます」


 アードの表情が一瞬強張った後、憑き物が落ちたみたいに崩れて苦笑する。

 そんな彼に、改めてカリンは尋ねた。


「あなた方の協力者となっている方の名前を教えて頂けますか?」


 それで覚悟を決めたらしい彼は、苦々しい顔で答えてくれた。


「ワーレット・ボンダリーです」


 ワ―レッド・ボンダリーは、ボンダリー商会のトップだ。今までこちらをつけていた者達の中にはボンダリー商会からの者はいなかったが、ドートーと交流がある者のリストには入っている。となればドートーが彼女を手に入れた後、彼女を見せた可能性は高い。


 おそらくは、ボンダリーこそが今回の黒幕と見ていいのだろうとカリンは思った。


次回はこの報告をセイネリアが受け取ったところの話。

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