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黒の主  作者: 沙々音 凛
【番外編:或る女の願い】
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27・追跡者1

 カリンは例のユラドの連中と連絡を取り合って情報交換が出来る程度の信頼関係は築けたが、あえて彼等の計画については何も聞いていなかった。だから勿論決行日も知らないし、彼等がどうやって屋敷に侵入する気かも知らない。

 ちなみにセイネリアから言われていたのも彼等の意図や反応を探る事で、彼等の計画自体はどうでもいいようだった。主であるあの男がいうには、極端なところ彼等自体はそもそもそこまで重要ではないらしい。彼等は歌を聞けば帰る、だから好きにさせておけ……という事だ。

 だからここで問題としているのは彼等を利用しようとしている者達の方で、そしてそういう者がいる事を彼等に信じてもらう事だった。彼を信じさせる方法についてはワラントに相談しろと言われたからその通りにしたが、最終的にはワラントだけではなく他の面々にもいろいろ言ってもらって計画を立てて貰った感じだ。


『あなた方の状況を確認してもらうために見せたいものがあります。私の事を少しでも信用して下さるつもりがあるなら、聖夜祭2日目、アード様一人で、競技会開始を告げる鐘が鳴る時までに以下の場所に来て下さい』


 前回彼等の隠れ家に行った際、カリンはその手紙をアードに渡した。あの男の様子からしてまず来る筈だ。決行日なら来れないかもしれないが、セイネリアの予想では決行日は聖夜当日、しかも夜と言われていた。

 いつも通りフードで顔を隠し、指定の場所で待っていれば、鐘が鳴るだろう時間少し前に確かにアードは一人でやってきた。少なくとも普通に見える範囲では。


「お呼び出ししてすみません」


 カリンがまずそういえば、相手は険しい顔をしてこちらを睨んでくる。


「一体、何を見せてくれるというのですか?」

「それはここに来るまでの間に、多少分かったのではないですか?」

「つまり貴女は……」


 そこまで言ったところで、彼は何者かの気配に気づいて振り返る。

 そこには仮面を被ってマントに身を包んだ人間が2人立っていた。小柄だが明らかに殺気を纏ったその姿に、彼は剣を抜いた。


「何者だっ」


 けれど構える間にカリンが彼の前に出る。その際彼には、目を閉じてください、と小声で知らせておく。それからすぐ、リパの光石を地面に叩きつけた。

 光が周囲を覆う。

 昼だから見てる相手もそれほどのダメージはないだろうが、一瞬でも目を離してくれればそれでいい。


「こっちです」


 カリンはアードの腕を掴んで引っ張った。そうしてすぐに近くのドアを開いて中に入る。


「あれは何……」

「しっ」


 カリンは指を唇の前に立てた。彼は口を閉じる。どうやらこの男はこちらのいう事をちゃんと聞いてくれたようで、口を閉じたままじっとこちらに抗議の視線を送ってきた。カリンは無言で壁の腰より下くらいの位置にある小窓を指さす。アードは顔を更に顰めたが彼も近くにきてその小窓から外を見た。小窓は斜め打ちの細い木が数本入ってブラインドの役目をしているから、こちらからは下の方しか見えないが向こうからはしゃがんで覗かない限りこちらは見えない。入ってきた時に使ったドアは魔法で外からは見えなくなっているから、大きな音を出さなければまず気づかれない筈だった。

 この建物は一見ただの廃屋だがワラントの情報屋が持っている隠れ家の一つで、相談した時にワラントがここを使えと言ってくれたのだ。


 外ではバタバタと焦った足音が行き交っている。どこだ、いたか、という声がする。ただそれらは足だけ見ても先ほどカリン達の後ろに立っていた者達ではない。音と見えた足からすれば、5人の男が周囲を見回して焦っているようだ。


「なんで……」


 小さく呟いたアードの顔は苦しそうに歪んでいた。無理もない、外で騒いでいる男達の中に彼の部下だろう人間の声が混じっていたのだから。暫く彼等は周囲を見てまわっていたようだが、やがて諦めたのかカリン達が消えた場所に戻って来て揉め始めた。


「さっきの奴らは、あんたらのどっちかの差し金だろ」

「何言ってんだ、そんな事する意味がない」

「言い出した者が一番怪しいな」

「何ィ、こっちがやったというのか?」


 暫く彼等の口論の様子を聞いていれば、そこには3つの勢力がいるのが分かる。一人だけいかにもプロらしくほぼ足音をさせていない者がいるが、残りはそこまで出来る人間ではないようだ。アードの仲間は2人いて、そのプロではない者の方にそれぞれついているらしい。

 暫くは言い合いをしていた彼等だが、やがてバカバカしいと一人が去れば、残りの連中もぐちぐち言い合いながらもそこから消えた。それを確認してカリンは立ち上がると、アードを手招きして奥の部屋へ誘導した。


「待て、これは……」


 奥の部屋には先ほどカリン達の後ろに立っていた2人がいた。仮面を外してはいるが服装と背格好から、彼女らが先ほどの人物と同じだと彼も分かったのだろう。


「ジーナさん、タレアさん、ありがとうございます」

「いえいえ~」

「うまくいったようで良かったです」

「はい、さすが婆様です、帰ったら婆様にお礼と上手く行った事を伝えてください」

「はいはい、了解~」


 彼女らに礼を言ってからカリンが振り返れば、完全に困惑している男と目が合った。


「すまない……つまり、彼女らは貴女の協力者で、わざとあの状況を作ったという事ですか?」

「はい、その通りです。騙すような事をしてすみません」


 彼はそれに溜息をついて頭を押さえたが、それでもこちらの意図は伝わったらしい。


「成程、私の後をつけている者達を教えるために、一芝居うったのですね」

「はい。現在のそちらの状況を理解していただきたかったので」


 彼はそこでまた深いため息をついた。


ちなみにこの隠れ家は入口が3か所程あります。ジーナとタレアはカリン達が一番近くのドアに入るまでは追跡者達から遮るようにその場にいて、その後に探すふりをして逃げ、隠れ家から遠い入口から中に入った感じです。

このシーンは次回まで。

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