表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の主  作者: 沙々音 凛
【番外編:或る女の願い】
1122/1189

19・リシェにて

 ワラントはリシェにも首都より小さいながら娼館を持っている。だから情報屋もリシェではそこを拠点としていて、カリンもそこに滞在させて貰っていた。


「カリンちゃん、たっだいま~」

「はい、おかえりなさいまっ……」


 エレーナが抱き着いてきて、カリンは固まる。やっぱりまだ、この手のスキンシップは慣れない。エレーナはカリンがどうすればいいのか分からず困っているのを見ると、くすくすと嬉しそうに笑ってから離してくれた。


「さぁって、他の連中はそのままつけてもらってるわ。一通り聞いてきたから報告するわね」


 あの後ユラドの連中とは今はまだ込み入った話までせず、こちらが例の彼女の様子を見る事が出来る状態である事だけを告げ、あとは連絡方法を教えて別れた。

 ただ一応彼等とはそれで別れたものの、彼等を遠巻きにつけている者2人――おそらくはそれぞれ別の手のもの――については、カリンの護衛についてきてくれたエレーナ達にカリン自身をつけてきた者達を含めて追ってもらったのだ。


「ジーナが追ってた奴はエニックドネル商会、クオラが追ってた奴はなんか倉庫街の廃倉庫に入っていったみたい。サナはまだ追跡中。で、私が追ってた奴はフィレッツ商会ね。あ、ジーナにはタレアと交代するように言っておいたから」


 ジーナとクオラに追ってもらったのはカリンを付けて来た者達で、エレーナとサナはユラドの連中をつけていた者達を追ってくれていた。タレアはそちらとは別で港周辺の監視役してもらっていた。

 今回セイネリアの指示をワラントに話したところ、それなら人手が必要だろうと言って、カリンのリシェ行にはエレーナだけではなく更に2人もつけてくれた。ちなみにその2人がジーナとクオラで、サナとタレアは元からリシェの娼館所属の者である。

 更に言うと本来、エレーナはカリンの護衛と追跡の指示役だったのだが、ユラドの連中についてる内の一人がちょっとヤバそうだからという事で彼女自身がそいつに付いてくれたという訳だ。


「すみません、私の仕事なのに皆さんに動いてもらってばかりで……」


 本来、怪しい人間をつけたりするのはカリンのやる仕事であるし、カリンとしてもそちらの方が慣れている。ただ今回のカリンはそういう裏方ではなく、表に立って怪しい連中を引っかけてくる係だ。そのあたりどうにも居心地の悪さを感じてしまう。


「いーのいーの、カリンちゃん美人なんだから目立ってもらって馬鹿を引っかけてもらうには適任だもの。それに……そういう役の方が全体が見える事もあるのよ、勉強だと思いなさい」

「……はい」


 自分に対して主が足りなく感じているものがたくさんある事は分かっている。それを勉強するためにもワラントのところに預けられたというのも分かっている。今はまだ焦らず、確実に学んで……主を理解して、あの男の求める部下になりたいと思う。


『向こうから接触してきて、何故ユラドの人間について調べているのか聞いてきたら、おそらくそれは囚われの姫君を救うつもりの連中だ』


 ふとカリンは、今回の件でセイネリアが言っていた言葉を思い出した。本当にその通りになっただけでもすごいのだが、彼はこうも言っていた――ただしそいつらはおそらく、ひたすら真面目な奴か、勇者気取りで自分に酔ってる馬鹿のどちらかだ、と。

 襲撃の可能性があるのは後者の場合で、今回は前者だったから面倒にはならずに済んだ。ただ後者だったら適度におだてて信用させればいいが、前者だったらあくまで誠実な対応内で信用を勝ち取らないとならない。ワラントに相談していいが、その上で自分でも考えろと今回カリンは言われていた。具体的な指示がないというのは少し、不安だった。


「どーかしたの? なんかまだ困ってる事あるならおねーさんに言ってみなさい」


 考えていたらまたエレーナに抱き着かれて、カリンは焦って彼女に言った。


「あ……いえ、あまりにも主……セイネリア様の予想通りなので、すごいなと」

「あー……まぁ、あの坊やはねぇ、確かにすごいわね、あれは確実に大物になるタイプだわ」

「はいっ」


 主であるあの男が褒められるのは素直に嬉しくて、カリンは思わず笑顔になる。ただそれをにこにこと笑って見ていたエレーナは、暫くして少し含みのある笑みを浮かべて視線を遠くに向けた。


「でもねぇ……あの男が凄いのは、予想を外した場合に即それを認めて修正するところだと思うわ」

「そう、なんですか?」

「えぇそう。状況を先読み出来るくらい頭のいー人間ってのはね、それが当たれば当たるだけ、外した時に自分のミスを認められなくなるものなのよ、普通は。婆様があの子を気に入ってるだけじゃなく信頼してるのは、そういうとこ」

「そう、ですか……」


 カリンは彼のしもべであるが、まだあの男について共に行動した時間は多くない。けれど早くあの男の傍に立てるようになって、あの男からもっと多くを学びたいと思った。


カリンの状況の説明。今回はセイネリアが基本ドートーの屋敷から動けない分、カリンががんばって動いています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ