2・仕事内容
「まだそこまで詳しく聞いていないんだが、護衛とはいっても実際のところは女性がいる屋敷の警備……という感じらしい」
「なんでまた」
「だよねぇ」
顔を見合わせて首をかしげているのは今回、セイネリアに声を掛けてきたセルパ・ナン・ロクと、アンナ・クルックだ。セルパはこのパーティでは一番ガタイが良い男で、背はセイネリアよりも低いが体の厚みはかなりのものだ。彼はあの樹海の仕事に単身で参加していたそうで、あの中で生き残ったのだから実力的には問題ないだろう。一方アンナは女で弓使いらしく、手首には編んだ紐が結んであって肩掛けには見慣れたロックランの印がついていた。話し方はとろいが所作は俊敏そうだ。年齢的にもセルパやディタルより明らかに上なあたり、冒険者としての経験も上だろう。
ちなみにこのパーティーにはもう一人リパ神官がいるが、年齢的に一人だけ世代が大きく違うというのもあるのか、あまり会話に参加しようとはしてこなかった。先ほどから穏やかな顔でこちらのやりとりを見ているだけだ。
「誘拐か、命を狙われているのか?」
あり得るパターンとして思いついた事をセイネリアが口に出してみれば、そこでディタルが大きく目を開いた。……どうやら当たっていたらしい。
「よく、分かったね」
「……旅の護衛じゃなきゃそんなところしかないだろ」
ただ心配だから護衛をつけるという程度の話ならパーティーごと雇う必要はないし、長期契約になる筈だ。となればと思った事を言った訳だが……これは本気でかなり面倒な事にはなりそうだとセイネリアは思う。
「幸い……といっていいのか、殺害ではなく誘拐予告だから……まだ、マシかな」
護衛する側の危険度はどちらも変わらないが……確かに守り易さでいえば対象を殺す気がない分マシとは言えなくもない。最悪誘拐されても無事なうちに取り返せれば解決する。
「誘拐を企んでる奴の正体は分かってるのか?」
「そこまで詳しくは聞いてないんだ。ただ依頼主は『ごろつき連中』だとは言っていた」
その言い方なら貴族相手ではなさそうだが、相手がどれくらい危険な連中かは分からない。セイネリアは改めて今いるこのパーティのメンバーの顔を見て思う、自分がいなかったら絶対に断ったほうがいい仕事だと。
「敵がどれくらい危険な連中か分からない状況なら、常に最悪の事態を考えて動いた方がいい」
セイネリアの言葉にディタルは顔を強張らせてごくりと喉を鳴らした。まったくそんな様子でよくこの仕事を受けたものだと思いつつ、受けた理由もある程度は予想がつく。まず護衛の仕事というのは上級冒険者等、余程の実績がある者……それ以外ならコネがあるか、信用ポイントが高い――リーダーが貴族だとか家柄がいい出の者――のところにしか回ってこない。
このパーティに話が来たのはリーダーのディタルが一応とはいえ貴族の出だからだろう。
「やっぱり、危険な仕事だよね。ウチでは荷が重いって言ったんだけど……どうしてもと言われてね」
大方仕事内容が胡散臭すぎてかなり断られたのだろう。それで頼み込まれて断れなかった、と――この男は善良な上に押しにも弱いらしい。
そこで大柄な男――セルパがセイネリアの肩を掴んで溜息をついた。
「それであんたに声を掛けたって訳だ。いや俺も護衛としか聞いてなかったから、普通に何処かへ行く道中の護衛かと思ってたんだが。ともかく、ディットが仕事を受けてはきたものの青い顔で強そうなヤツを知らないかって聞いてきたからあんたを思い出したのさ」
セイネリアが彼に誘われた時に言われた仕事内容は『金持ち商人の護衛』だ。護衛の仕事はイレギュラーなリスクが多いが、貴族絡みでないなら相手にするのは盗賊くらいなものだろうと思っていた。あとは誘ってきたこの男が信用出来そうだと思ったから受けたのもある。
「……誘拐予告の護衛となるとどういう危険があるか分からない。約束が違うと断られても仕方がないが、出来れば力を貸してほしい」
大柄な男は言って頭を下げてくる。見たところ、このパーティーで純粋に戦闘能力だけならこのセルパが一番だろう。それを見てすぐ、今度はディタルが頭を下げた。
「いやセルパ、頭を下げるなら俺だ。危険な仕事かもしれないが、どうか力を貸してほしい」
――本当に、メンバーは善良な人間ばかりらしいな。
呆れるくらいに、とセイネリアは僅かに口元を歪めた。
ディタルがリーダーをやっているのは貴族の出だから(パーティーの信用はリーダーの信用ポイントで決まる)と思っていたが、実際に他のメンバーに慕われてもいるのだろう。少なくともセルパはディタルのためにセイネリアに声を掛けてきたし、頭を下げた。そのディタルも貴族の肩書きがあるのに仲間のために頭を下げる。その他の面子も心配そうではあってもディタルに信頼の目を向けているあたり、そこそこ長く組んできて互いに信頼している良いパーティーなのだと思える。
それにこの仕事を最初から自分達だけでは無理と見て戦力の追加が必要だと考えた時点で、ディタルはプライドよりもパーティの安全を考えるような人間だというのが分かっている。
――どちらにしろ、ここまで来て断る気はないしな。
「安心してくれ、今更受けた仕事を断る気はない。よろしく頼む」
セイネリアが言うと、面々は明らかに安堵の笑みを浮かべた。
今回のお仕事のメンバー紹介みたいな感じですね。
いつもの事ですが、出だしは地味な状況とキャラ紹介的なエピソードが続きます(==;;
次回は依頼主との顔合わせ。