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黒の主  作者: 沙々音 凛
【番外編:或る女の願い】
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1・奴に会わない仕事

番外編です。4章の19話~20話の間、樹海の仕事以降、セイネリアが一人でいろいろ仕事を受けていた頃のとある仕事のお話です。

 自由の国クリュース。この国がそう呼ばれるのは冒険者という制度があるせいだが、勿論その制度が最初からなんでも上手く回っていた訳ではない。問題が出るたびに法律をつくり、施設を作り、いろいろ継ぎ足してきて今の状態がある。

 この国が自由の国と呼ばれるのは、冒険者制度によってどんな生まれの人間でも上にいける可能性があるから、というのが一般的な理由だ。

 だが他国では迫害されている魔法使いが普通に認められて生きていける点で、魔法使いでさえ自由がある――ということを差して自由の国と呼ぶこともある。

 更にいうともう一つ、クリュースが自由の国と呼ばれるところがあるのだが……。




 どんな職業でも駆け出しというのは儲からないものだが、冒険者の場合は一概にそうとも言い切れない。なにせ冒険者というのはなった時点の実力や財力、家柄や年齢や性別等が皆違う。つまり一言に駆け出しと言ってもスタート地点が同じではないのだ。金があれば装備が整う、家柄が良ければ信用がポイントが最初からある、実力があれば一度大きな仕事をして皆から認められればあとは仕事に困らなくなる。

 冒険者としては駆け出しであるセイネリアだが、樹海の火事で森の外へと溢れた魔物討伐の大規模な仕事を請け負った後はあちこちから声が掛かって仕事には困らなくなった。一応、冒険者として活動する前から貴族の代理戦闘である程度名は知られていたため実力自体は認められてはいたのだが、なにせ残酷だとか非道だとか、人間性的には悪い方で名が売れていたという事情があった。

 冒険者が仕事仲間として組みたい人間は、実力があるのは勿論だがもっと重要なのは信用出来る者である事。

 前者はいいとして後者の面で敬遠されていたため、セイネリアも最初は組める者がおらず誰でも参加が出来る大規模募集の仕事に参加した。そこで人間性の方も――性格は冷酷でも、少なくとも仕事仲間として信用は出来る人間だとは思われたらしい。


 そういう訳で今のセイネリアはあの樹海の仕事以降、割合仕事に誘われるようになった。一人だとどうしても受けられる仕事の範囲が狭くなるが、どこかのパーティが受けた仕事に誘われればそれなりに割のいい大きい仕事が出来る。報酬や仕事内容を見て、ある程度のえり好みも出来るようにもなった。


 それは良かったのだが……ただ少しだけ、今のセイネリアは困っている事があった。いや、正確には困っているという程ではなくどうするべきなのか決めかねている、という方が正しいのだが。


 実はあの樹海の仕事と以降、受ける仕事先でやたらとエルという青い髪のアッテラ神官に会うのだ。1、2回くらいなら偶然とも思うが、3回続けば偶然とは言えない。向こうがわざとこちらと仕事が被るようにしていると考えてもいいだろう。

 あの神官自体は繋がりを作っておくだけの意味はある人間だとはセイネリアも思っている。実力面も、やたらと社交的な性格も、仕事で組む相手としては好ましい人間だ。だがへたに付きまとわれるのは困る、というか気味が悪い。単にセイネリアと組むと旨い仕事にありつけるという程度の下心なら構わないが、それでもあまりにも一緒の仕事をすると周りからも組んでいるのではないかと思われる可能性がある。妙に馴れ馴れしい態度も少々うっとおしい。かといって仕事で組む分にはメリットも多いから断る程ではない――と、彼の扱いにどうするかと思っていたのだ。


――とりあえず次は、絶対に奴に会わない仕事にしてみるか。


 ここ数回の仕事で彼の性格はほぼ分かっている。わざわざ聞き出さなくても自分から言ってきてくれるのだから楽だ。それで分かった事から考えて、セイネリアは声を掛けられていた仕事の内、あのアッテラ神官がまずやらないだろう仕事を選ぶ事にした。






「俺がパーティリーダーのディタル・ゼント・レット・レントだ、よろしく頼む」


 歳の頃は30前後といったところか、冒険者としては育ちが良さそうな顔をしているのは一応とはいえ貴族の出だからだろう。とはいえ握手をした手はそれなりに経験を積んだ固さがあるし体つきもきちんと鍛えているもののそれだ。顔は善良そうだから信用は出来るだろうが、この手のタイプは窮地に立たされると助かる方に縋る可能性はあるから信用し過ぎてはいけない。


「セイネリアだ」


 握手に応えた事で満足したのか、ディタルは笑顔を浮かべている。


「セルパに聞いたんだが、君はすごい強いそうだね。心強いな、今回の仕事はウチの戦力だけじゃ厳しいと思って困っていたんだ」

「戦力としては期待してくれていい、あんたが裏切らない限りは俺も裏切らない」


 それに目を丸くしたところからして、裏切る、なんて考えた事もないのだろう。


「それなら大丈夫だ」


 笑ってそう返した男に、そうだといいな、と心の中だけで返して。セイネリアが黙って他の面子のいる場所まで下がったのを見たディタルは、今度はパーティーメンバー全員に向けて口を開いた。


「さて、今回の仕事は事前に言ってある通り、ある女性の護衛だ。依頼主はドートー商会のアンジェック・ドートー氏」

「金持ち商人のお嬢さんがどこかへ行くとか?」

「いや、そうではないらしい」


 冒険者を雇っての護衛というと、普通は移動中の事になる。だが違うとなると……もしかしたら結構面倒な仕事かもしれないとセイネリアは思う。ただでさえ護衛系の仕事は想定外の危険がある事が多い。単に遠出する時の護衛の人数合わせならまだしも、護衛対象を狙う『敵』がいる場合は特に注意が必要だ。


久しぶりの更新。今回は本編で書かなかったお仕事の話。

エルにストーカー(?)されてたからエルが受けなさそうな仕事(リーダーが貴族)を受けてみた、というというところから始まります。

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