エピローグ
エピローグになります。これで本編は完結です。
廊下を歩いていたら名を呼ばれて、カリンは振り返った。
「悪ィ、ちょっといいか?」
表向きのナンバーツーであるこの男は相変わらず威厳というものとは無縁の気楽さで話しかけてくるが、トップがあまりにも存在が強いためこれくらいで丁度いいのだろうとカリンは思っている。
「あぁ、構わない」
パーティーメンバーとして仕事をしていた時とは違って、今のカリンはエルにも他の部下達同様の言葉遣いで接するようにしていた。実質のナンバーツーはカリンの方だと認めているからか、それに彼が文句を言ってきたことはない。
「契約が決まったなら、近々ロスターの田舎ってかエーリジャの奥さんのとこいくんだろ?」
「そうだな、一度私がドクターと行って、事情の説明と腕の状態を見てくる事になっている」
「うん、でさ、そん時に出来たら俺も連れてってもらえねーか?」
「ボスに許可を取る必要はあるが、おそらく大丈夫だろう」
すると長い付き合いのアッテラ神官は、言い難そうに頭を掻きながら視線を外して下を向いた。
「まぁほら……仕事仲間としてマスターに振り回されまくった仲だし、一度くらいは墓に顔出しておきたいと思ってさ。いつも飲むなって止めてた分、酒でも持って行ってやるかなって」
最後ににかっと歯を見せて笑って言ってきた彼に、カリンもクスリと笑った。
「酒なら墓にやる分とエーリジャの家に置いてくる分、ボスが用意してくれている」
「……そっか、確かにあいつ他人に興味なしって顔して結構そういうとこに気が回るんだよな。んじゃ、もしかしてマスターも行くのか?」
「いや、行かない」
カリンがあっさり即答したため、エルは拗ねたように唇を尖らせた。
「なンだよ、元仲間なんだし、どうせなら行きゃいいだろ」
「ボスが行くと騒ぎになりそうだというのと……『酒を持って行くんだぞ、死者のあいつにまでせっちゃんと絡まれるのはごめんだ』だそうだ」
エルはそこで目を大きく開いて固まると、次の瞬間大声で笑い出した。本当にこの男は、感情の起伏が大きい上に分かりやすすぎて、セイネリアとは正反対だと思う。
「ははっ、確かに絡まれついでに一緒にこっちについて来られても困るしな。……しっかし、あとにも先にもあのセイネリア・クロッセスを馴れ馴れしくせっちゃん呼びすンのはあのおっさんくらいだろうな」
「確かに」
まだ笑いが収まらず笑い声をあげていたエルだったが、急に何かを思い出したように口を閉じ、今度はにやりとした含みのある笑みを浮かべてこちらを見て来た。
「そういや、最近マスターが街でなんて言われてるか知ってるか?」
セイネリアとこの傭兵団は、リオの報復に動いた時の件で本格的に一般冒険者からは線を引かれる存在になった。なにせ前は街に出ればあちこちで噂話をよく耳にしたのが、今は普通に人が集まるような場所では殆ど聞かなくなった。
だが噂話自体は皆知っている。……それはつまり、へたに口に出せなくなったという事だ。セイネリアの名と傭兵団の噂は、関わって巻き込まれたくないから公の場では口に出さないのが冒険者たちの間では暗黙の了解になっていた。
とはいえ勿論、他の人間に聞かれそうにない場所では密かに話されていて、それらの噂の一部はカリンの耳にも入っていた。
「あぁ……」
だから、あれのことか、という顔にしたカリンに、エルが言っていた者のマネをしているのかいかにも恐ろしいモノを言うようにわざとこっそり言ってきた。
「セイネリア・クロッセスに逆らうな、逆らえば死ぬより恐ろしい目に合う」
エピローグ本文より長い、言い訳というか今後の話についての後書きです。
そんな訳で「黒の主」として、セイネリアを主人公としたお話はここで完結となります。長い話をここまで読んでくださってありがとうございます。今後このページに関しては本編で書けなかったエピソードや、補足的な話を番外編として書くつもりなので完結設定にはしないでおきます。ザラッツの裏話とか、下っ端団員さんの日常話とか気楽なのとかも書きたいかなと。リクエスト頂ければ書くかもしれません。とにかく今はプライベートの方での引っ越しが終わるまでは小説書く時間があまり取れないので、忘れたころにちょろっと更新されるかも、くらいに思っていてください。
さて……まず「黒の主」ですが、最初からこれはセイネリアが最強と呼ばれて恐れられる存在になるまでの話の予定でした。小説の紹介文もそう取れるように書いてあります。ただ当初予定では、黒の剣を手に入れてセイネリアがどんぞこに落ちてから割とすぐアガネルがやってきてどうにか気持ちを切り替えて、契約関連の話やってロスターが来てEND……って感じだったのですが、長く書いてるうちに各章に出てた人達の残りのエピソードが溜まってしまって(約束した事とかその後として書かないとならない事とか)その辺りを含めたのと、流石に予定通りだとかなり後味悪い最後になるのでもう少し救いを入れて終わりにしようとこのカタチになりました。
ただ正直、黒の剣を手に入れてからセイネリアが気を取り直すまでのエピソードに時間を掛け過ぎて、テンポ悪いわ、すっきりしない状況が続くわと読まれている方には相当ストレスをかけてしまったと反省しています。いつもなら小説は一度下書きを書いてから何度も読み直して修正するのでこういうぐだぐだした展開は出来るだけ短くなるようにするのですが、今回はちょうどその時期に母の入院から葬儀後のごたごたが重なってしまったため書きあがったら即上げる状態が続いて、ただでさえ長くなり気味な文章が更に冗長に……。とはいえ現状の形はエピソードを省かないで全部入れた結果なので、これはこれとして大幅な改編はせずにこのままにしておこうかと思っています。勿論あとでミスや矛盾点などが見つかった場合はこっそり修正すると思いますが、エピソードをごっそり削るような修正はしない予定です。
で、セイネリアのこの後ですが……この後から剣の呪いをどうしたかの話は、実は一般向けでない話で既に書いて完結しています。ただ本当にそっちは限られた趣味の人向けに書いたものなのでその手が好きな人以外は読むのを勧められません。いっそ別ルートとして一般向けの違うENDに向かう話を書く事も考えたのですが、元の話を読まれている方に申し訳ないのと、結局元の話が一番のハッピーエンドなのでそれ以上いいENDにはならないという事で踏み切れませんでした。とはいえこのままセイネリアがどうなったかは投げっぱなし……というのはしたくないので、今後別の話で最終的にセイネリアと黒の剣がどうなったかについては書くつもりです。おそらくセイネリアはメインキャラの一人で主人公は別になると思います。(でないと一般向けに出来ないので)
ちなみにここから暫くセイネリアは表舞台には出ないで小さなエピソードに関わって裏で恐れられていく……というだけの状態が続きます。なのでどちらにしろここで終わりにしないとだらだらと中だるみの本編に関わらない小さいエピソードが続くだけになるのでここで完結にするのはどちらの場合(別ルートを書くにしても元の話通りだとして)でも確定でした。
セイネリアが最終的にどうなるかについての話は基本ストーリの構築に時間が掛かると思うので、それまで暫くはたまに番外編を更新するくらいになると思います。ただ……実をいうと戦闘シーンが書きたい欲求が溜まっているので、初代国王アルスロッツがクリュースを作るまでの話を書く方が先かもしれません。そちらだと完全に戦記ものなので戦闘シーンが好きなだけ書けるのが……黒の主は剣を手に入れた後はセイネリア自身が楽しくなくなったのもあって最近楽しい戦闘シーンが書けなくなってましたから(==;;
とりあえず今後はこちらのページで番外編をたまに更新しつつ、後書きや活動報告などで予定を書いていくと思いますので、気が向いた時にでもチェックして頂ければ幸いです。ともかく今回は、ここまでこの話を読んでいただいてありがとうございました。ここまで長いのにすっきりハッピーエンドという終わり方でない事には本当に申し訳なく思っていますが、無事ENDがつけられたのは読んで下さった方々のおかげです。