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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
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80・少年と父親の約束2

 そうしてゆっくりエデンスは壁際からこちらに歩いてくると、セイネリアの方に向き直って言ってきた。


「……あのな、あいつの奥方は右腕がないんだ。冒険者時代に化け物に食われたそうでな、あいつが金を稼ぎたかったのは植物擬肢を作るためもあったんだよ」


 それには流石にセイネリアも眉を寄せた。……本当に、運命というのは皮肉過ぎていると思わずにはいられない。


「俺も実は、ドクターの話を聞いた時に言うべきかと思ったんだが……本人に止められててね」


 セイネリアは眉を寄せたまま再び目を閉じた。憤りの感情が更に膨れる。先ほどのが彼の運命に対するモノであったなら、今は自分に対する憤り、怒りだ。


――結局、エルの時と同じミスをした訳か、俺は。


 相手を信頼しているからこそ本人のプライベートに関わろうとせず調べなかった。結果論だが、事情を知っていたならエーリジャに植物擬肢の約束をする代わりに傭兵団に来てくれないかと連絡をしていただろうと思う。彼がすんなり了承するとは思わないが、サーフェスの事を話せば了承した可能性は高い。

 もしくはもし、エーリジャが自分と別れたのが傭兵団にサーフェスが入った後であったなら――考えれば考える程、運命という奴の皮肉さと自分自身に怒りが湧いてセイネリアは思う。


 たとえ不老不死だろうと、最強の力を持とうと、出来ない事はいくらでもある。


 それにどこかで安堵を覚える自分も腹立たしいが、後悔、という言葉を思い知ってセイネリアは自嘲する。ずっと後悔という言葉を馬鹿にしてきたのに、最近の自分は後悔をしてばかりだ。


「俺っ、父さんと約束をしてたんです。父さんが歳になって冒険者を引退したら俺が母さんの腕の費用を稼ぐって。でも貴方のおかげで当分は仕事しなくても大丈夫になったからって、予定よりずっと早く引退出来て、一緒に暮らせて……だから父さんは貴方には感謝してるって言ってました」


 とはいえそれは、今ここにロスターがいる時点で、腕の維持費を稼がなくてはならなくなったとも取れる。植物擬肢は金がかかる。それは作って終わりではなく、定期的に作り直さなければならないからだ。


「それで父の代わりに、お前が冒険者になって母の腕の維持費を稼ごうとしているのか?」


 そう尋ねれば、少年もどういう意味でセイネリアがそう聞いたのかを理解したらしく、焦って両手を前に出す。


「あ、いえっ、そのっ、まだ当分は母の腕のお金は問題ない、ですが……俺は早く冒険者になりたくて出て来たんです」

「なら、お前はここに来て俺に何を望む?」


 聞き返せば少年はまた息を飲んで口を閉じる、が……暫く待てば、少しづつこちらを伺うように見ながら言ってきた。


「父から貴方の話を聞いて……ずっと、貴方の事を尊敬してました。だから、その……どんな雑用でもやりますから、その、今の俺は何の役にも立ちませんが、強くなって絶対役に立てるようになりますので……貴方の下で、働かせてもらえないでしょうか」


 セイネリアは彼にすぐ返事を返さなかった。

 カリンとエデンスが心配そうな目をこちらに向ける。少年は泣きそうな顔をしていたが、それでもしっかりセイネリアを見ていた。


「お前の父がどんな人間だったかを知っているから、彼に育てられたお前という人間も信用していいと思っている。だから、言葉通り一番下の雑用の立場からやるつもりがあるのなら、ウチに入れてやってもいい」


 ロスターの顔が安堵に緩む。ただそれを引き締めるようにセイネリアは更に低い声で彼に言う。


「だがお前にはもう一つ選択肢がある。俺にはな、その人間の願いをきいてやる代わりに俺に絶対的な忠誠を誓う契約をしている部下がいる。例えばお前なら、母の腕の維持をしてやる代わりに俺に一生の忠誠を誓うという契約も出来る。……こちらの場合、契約が成立した時点で以後お前に何があっても俺は約束を果たすと約束する」

「それは……俺が死んでも、という事ですか?」


 そうすぐ聞き返せるという事は、頭の回転も悪くはない。


「そうだ。勿論裏切った場合は別だが、お前が俺との約束を破らない限り……お前が死んでも、怪我で仕事が出来ない体になっても、お前の母が生きている間ずっと腕の維持はしてやる。ウチに所属している治療師の魔法使いが最高のもの作る。もしそいつが出来ない場合でも俺は魔法使いに顔が利くから他に頼める。なんなら追加で、母親へ生活出来るだけの仕送りをする事も条件に入れてもいい」


 少年は固まったように目を見開いて考えている。条件としては申し分ない筈だが、若く未来のある子供が一生をまだよく知らない相手に捧げるという不安はあって当然だ。そこから先の決断は、エーリジャから聞いた話とロスター自身がセイネリアを見た上でのものになる。


「返事はすぐでなくていい。暫くは昔の仲間の子供として客扱いでここに置いてやる。その間にここの事も見て回ればいい」

「……はい」


 それにはやっと返事を返したが、それでも少年は困惑したまま下を向いて考えていた。セイネリアはカリンに声をかけてロスターに部屋を用意してやるように命じた。それから、暫く少年の世話兼案内役としてラダーを付けるようにも言っておいた。



ロスター少年の事情は後でちょい補足があります。

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