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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
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77・少年

 脅しの利く噂が広がった後の黒の剣傭兵団は外ではともかく団内は平和だった。とはいえ皆だらける事はなく、暇があれば鍛錬に励んでいる者が殆どだ。なにせトップにいる人間が人間であるから、常に団員達の間には緊張感がある。


 情報屋の方にいろいろ指示を出していたのもあって、このところのカリンは忙しかった。セイネリアから言われた謎の現象――魔法が関わっていると思われる不可解な話あれば噂レベルでもいいからとりあえず調べて報告してこいという指示は、情報屋内で出来るだけ広く伝える必要があった。おかげで仲介をしている連中を呼んでは説明したりするのがここのところの仕事として大きかった。

 そうしてあらかたの方面に指示を出し終われば、今度はその情報が入ってきてはそれをセイネリアに伝えるという仕事がやってくる。最初の内は一気にあちこちから入ってくるから、それをまとめるのも一苦労だ。


 ただカリンとしてはどれだけ忙しくなっても辛いとは思わなかった。なにせその指示を出すようになってから、セイネリアが精神的に落ち着いたように見えるからだ。


「遅くなってすみません、今帰りました」


 聞こえてきた声はラダーのものだ。

 カリンが書類仕事をするときの仕事部屋は資料室で、ここは2階に上がる許可がある人間なら誰でもいきなり入って来ていい。ラダーは幹部扱いではないがセイネリアとの個別契約をしている人間なので、2階といわず、鍵が掛かっている場所以外は基本的にどこへでも入れる。能力は確かにとびぬけたモノを持っている訳ではないが真面目で信用は出来る男なので、いろいろと細かい頼み事をするのには都合が良かった。カリンの情報屋の部下の方が能力面では上ではあるが、傭兵団内をうろついていても不自然ではない事と、あとはやはり男性の方が頼みやすい仕事というのがある。


「ご苦労だった。ケンナ様は元気そうだったか?」


 棚の影から彼の姿が見えてから、カリンは振り向いて彼に聞いた。今回彼に頼んだ仕事は鍛冶屋のところに修理する武具を持って行ってもらう事だった。


「はい、今回の量なら5日で終るそうです」

「そうか、道には迷わなかったか?」

「はい、大丈夫でした」

「絡んでくる奴などは?」

「そちらも大丈夫です。危なそうな連中にすれ違いはしましたが、この印を見たらさっさと離れてくれました」

「それならいい」


 傭兵団の者は団のエンブレムを見えるところに身につけている。ラダーの場合はエンブレムのついた黒いフードを渡しているので、外出する時、特にあまり治安の良くないところへ行く場合は必ずそれを着けていくようにいってある。この団の噂が広まった今では、少なくとも首都内でそのエンブレムを見て危害を加えてくるような者はまずいない筈だった。


「それで、ケンナ様からマスターに伝言を預かっています。鎧を見てやるからそろそろ顔を出せ、だそうです」

「分かった、お伝えしておく」


 西の下区の中でも傭兵団から割合すぐに行きやすく、犯罪も比較的起こりにくい場所にケンナは店を構えている。団内でも特に腕を認められている者は自分で直接装備を直して貰いにいくが、それ以外の者の武具は今回のようにまとめて渡しに行く。弟子の勉強用になるらしい。

 それで話は終わったと書類仕事に戻ろうとしたカリンだったが、ラダーがまだ何か言いたそうにしていた事で彼の顔を見た。


「どうした?」

「あの……すみません、実は……その後伝言を取りに行った事務局で、子供に声を掛けられて傭兵団に連れて行って欲しいと言われまして……」

「それで、連れて来たのか?」

「はい、今は門番の待機小屋にいます」


 カリンは返事代わりに少し不快そうに眉を寄せた。いくら子供だと言っても確認もなく連れてくるのは褒められたものではない。ラダーならそれくらい分かっていると思っていただけに正直少し失望した。だが、次に言われた言葉で彼の行動に納得する。


「マスターの名前を出して会わせてほしいと言ってきたのと、紹介状? というか手紙を出してきて、これを見て貰えば分かる筈だと言われたんです」


 そうして彼が手渡してきた手紙を受け取ったカリンは、その手紙にあった署名を見て苦笑する。それから一度手紙を開いてざっと内容を確認すると、その手紙を持ったまま立ち上がった。


「その子は赤毛ではなかったか?」

「あ、はい、そうです。あと弓を持っていました」


――なら確定だ。


「私はボスに手紙を渡してくるから、その子は待機部屋に通しておいてくれ。後で呼びに行くからそれまではお前が相手をしていろ」


 軽い笑みと共にいえば、訳が分からないといった顔のラダーはそれでも背筋を伸ばして了承を返す。

 この傭兵団の者は皆優秀だが、それなりの実力と実績ある者達は少なくとも子供が傍にいて安心できるような風貌をしてはいない。その点子供相手が慣れているラダーがついていれば安心だろう。というかおそらく、その子供はこの傭兵団の人間に接触しようとして他の人間は怖くて話しかけられず、ラダーを見てやっと話しかけられたのではないかと思う。


 とにかく、カリンは急いでセイネリアのもとへ向かう事にした。


子供が誰か……分かります、よね?

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