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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
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72・報告と…1

 今は止んでいるが、すっかり雪に包まれた風景の中をセイネリアは歩いていた。途中どこかの傭兵団の人間数人とすれ違ったが、全員が全員信じられないものを見たように驚いて道の端に逃げて距離を取ろうとしたのには笑えた。

 一応セイネリアだって、名のある傭兵団の長が決して安全とは言えないこの辺りの道を一人で歩ているのがおかしいのは分かっている。かといって連れていく意味もないのに誰かを連れて歩く気にはならない。特に魔法ギルド関連の事では一人のほうが余計な事を考えなくて済む。


 昨夜ケサランから連絡がきた。あのあと魔法ギルドでどうしたかの事後報告をしたいという事だったので今日会う事にした。出来れば街中に行きたくないと言っていた彼もさすがに雪の森で待ち合わせをしようとは言ってこなくて、今日は前に使ったこちらの勢力下にある密談用の酒場で会う事になっていた。街中移動だけならわざわざ馬に乗る事もない、どうせ大通りに出れば人が多すぎていちいち注目される事もなくなるのだからと徒歩で行くことにしたという訳だ。

 大規模傭兵団用の区画から大通りまで出て、そのまま通りを横切って東の下区へ入る。宿屋や飲み屋、娼館がある区画だから昼間の今はまだ人が少ない。そういえばこの区画の外周の方でセウルズが治療院をしているらしく、見張ってはいないが娼館街から遠くない事もあってたまにカリンの部下に様子を見にはいかせていた。基本的に関わる気はないから、あくまで彼らの現状について報告を聞くだけだ。


 別れる時に聞いた予定通り、サウディンはリパの神官学校に通っているそうで、将来は神官になってセウルズの治療院を手伝うつもりらしい。親子だという事にしているそうだが年齢的には息子というより孫でもおかしくない。そこを揶揄われる事もあるらしいが、男側が年上での歳の差がある結婚はこの国、特に首都辺りでは珍しいという程ではないから不審に思われる程ではないだろう。


 ボーテが死んだ事はまだセウルズは知らないらしい。

 完全に前の人間との関わりを捨てているから今のところはどこからも伝わっていないのだろうが、別に知らせる気もないし、逆に知らせないようにする気もない。知った時にセウルズが責任を感じようが嘆こうが、今の彼には生きていなくてはならない理由があるから放っておいても問題はないだろう。


 酒場につくと、外にいた見張りが驚いて顔を下げる。

 セイネリアがそれに片手を上げて建物に入れば、中にいた者がセイネリアを建物の奥へと連れて行く。事前に連絡してあったから何も言わなくてもケサランが待っている個室へ案内されて……ただいつもなら顔をみた途端文句の一つでも言ってくる魔法使いは、確実にこちらの顔を見た筈なのに黙って目を伏せた。

 一応、セイネリアはその理由らしきものを聞いてみる。


「飲んでるのか?」

「あぁ」


 彼の目の前には酒のグラスがあった。

 口調からして酔っているという程ではないと思うが、待ち合わせでセイネリアが来る前に彼が飲んでいるのは珍しい。


「ギルドでの後始末でもめたのか?」


 セイネリアが酒を頼んで座れば、ケサランはグラスを持ったままこちらを見ないで口を開く。


「今回の件だが、王の記憶を見ても……騎士の名は分からなかった」


――……という事にしたのか。


 今のセイネリアは騎士とのやりとりを覚えていないし名も覚えていないが、状況から騎士の名前が分かって彼と何かしらのやりとりをしたのは確定だと思っている。なにせ自分からの伝言で『騎士にあって気が済んだ』と言っているのだ。


 そこで酒が運ばれてきたのもあってか、ケサランは口は閉じたままだった。だから酒を運んできた者が部屋から出たところで、セイネリアが彼に言ってやる。


「この部屋はここで一番密談向きに対策されている。もし部屋の外に誰かいても声は聞こえないし、魔法も通らない」


 だから安心して話せと促せば、酒を一口入れてからケサランは溜息をついた。


「とりあえず、あの場にいた者の間では、そういう事で話がついてる」


 セイネリアは僅かに眉を寄せた。

 彼が魔法ギルドの利益よりセイネリア側に肩入れする傾向があるのは分かっていたが、それでも今回のこれはさすがに魔法ギルドに対する裏切りと言われても仕方ない。こちらを尊重してくれるレベルを超えてやりすぎだ。


「ギルドの上の連中は文句を言ってるんじゃないか?」


 魔法ギルド的に今回の件は例外に例外を重ねている。ここまでやって成果なし、では通らないだろう。


「そら……まぁな。ただ王の記憶からそれなりに情報が得られたからな、それを伝えた事でどうにかなった。あとはアルワナ最高司祭が一応お前の中に入った時の情報を少しだけ、な。成果は期待程ではなかったが、なしではなかったからそこまで問題にはなっていない……ま、嫌味は言われたが」

「嫌味で済めばいいがな」


 それにケサランはちらとこちらを見た後、グラスに残っていた酒を呷った。それを見てセイネリアも自分のグラスの中身を飲み干した。それから人を呼んで2人分の酒を頼む。


ケサランとの会話は2話か……もしかしたら3話使うかも。

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