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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
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71・見送り2

「裏切りやズルやってたら後でえらい目にあうのは確実だが、そういう後ろめたい事なきゃビビる必要なんかなんもねぇぞ。……ただ怖いだけだ」


 エルがそこまで言うと皆争うように言ってくる。


「いやその怖いのが尋常じゃないですからっ」

「本当に……近くにいるだけで足が震えるくらい……」

「怖いって言葉があれほど似合う人もいねぇっ」


 そうかーそんな怖いのかーと、ちょっと他人事のように思ってしまうエルだったが、自分がその辺りあまり気にならなくなってるのは本当に慣れだと思う。あとはどんなに怖くても機嫌が悪くても、セイネリアは理論的に判断して正しい事しかしないのを分かっているからだ。

 ただそうして皆がセイネリアの怖さについて話して盛り上がっていれば、その中でぽつりと一人が呟いた。


「でも……戦場とか、危険な現場だと、あの人がいる安心感すごいですよね」


 その一人の言葉に、やはり他の連中が続く。


「それなっ、安心感ってか心強さ半端ねぇよな」

「どんなとんでもねぇ化け物相手でも、マスターいたら死ぬ気しねぇな」

「普通なら絶望的な戦力差相手でも、マスターならどうにかするって思えるぜ」

「実際マスターって一人で数十人皆殺しにしてるし……」


 そこまで怖がられてるからこそ絶望的な状況では心強いんだろうな――なんてしみじみ思いながら、エルは彼らにちょっと意地悪く言ってみた。


「逆に言や、敵に回したらマジで最っ悪の人間だけどな」


 聞いた団員達の顔から一気に血の気が引いていく。サーっという音が聞こえる気がするくらいに。そうして、あれだけ我先にと話していた口が皆止まって沈黙が訪れた。


――これじゃぁ、形式ばって威厳を示す必要なんかねぇわな。


 少数精鋭主義のウチの団にいるのだからここにいる全員、少なくとも冒険者としては中の上以上か特殊技能持ちの実力者ばかりなのだがそれでもこの反応だ。これならウチの団員達が裏切る事はまずないだろうなとエルは思った。


 団を立ち上げて最初の内は団員募集を定期的に行って人数を増やしてきたが、これからは基本的に募集はやめる、とつい先日エルはセイネリアに言われていた。今後は基本団員の推薦がある者だけをテストする事にしたらしい。勿論、直接入れて欲しいとやってきた者もちゃんと見てやるそうだ。だから幹部と、団員の中でも実力面で信頼できる者達は、いい人間を見つけたら積極的に推薦してきていいぞとも言われている。ただセイネリアとの個別契約の方に関しては……それとなく噂として知る者は知るくらいでいいから特に話す必要はないという事だ。聞かれた場合は、セイネリアが契約を了承しそうな人間に見えたら言っていいと言われた。


――下っ端もある程度確保出来たから、あとは完全に質重視にするって事かね。


 募集で入ってきた連中――特に実力よりも将来性と性格面の評価で入れた者達も、今ではかなり使える腕になった。おそらくそこらを下限として、それ以上の人間だけの傭兵団にするのだろう。


――人数が少なければなめられるって事も……まぁ、うちに限っちゃねぇしな。


 なにせうちの団に手を出したらどうなるかについては、リオの件でかなり広がっている。『命が惜しければ奴に手を出すな』とはセイネリアに対して前からよく言われていた事だが、リオの時の復讐の仕方が広まるにつれ、最近では『奴を敵に回したらさっさと自殺したほうが楽だぞ』なんて言われているらしい。


「まぁマスターは本っっ当に怖いですし、出来れば話したり傍にいきたくはないですけど……それでもめちゃくちゃ尊敬してます。俺はここの団員になれてすげー良かったって思ってます。マスターの指示なら無条件でなんでもやりますっ」


 そう一人力説したものが出れば、俺も俺もとやはり次々と同じ事を言い出す者が出てまた賑やかになる。

 リオの件があった後、団員達は相変わらずセイネリアを怖がってはいても、彼に対する信頼は爆上がりしたらしい。団員がセイネリアを裏切る訳がないという部分は怖いからだけではなく、主として心酔しているからというのもあるという事だ。

 確かに絶対服従の契約なんかなくても、彼みたいなのが自分のボスだというのは誇らしいし、絶対的に信頼出来るのは分かる。


――まぁ、自分みたく慣れてない者にとっては心臓に悪そうだがね。


 そんな風に考えながらも、部下達がちゃんと彼自身を怖がるだけでなく本当は慕っているというのを知るのはエルとしても嬉しかった。セイネリアは人から悪く言われる事などまったく気にしないが、付き合いの長いエルは彼が公平で合理的な考えを持っていてその言動について絶対の信頼が出来る人間だと分かっている。情抜きで物事を考えるから時に冷酷に思える事はあるが、それでも私欲がない彼の判断は最終的に正しいと信じられる。下につく人間として、彼の言葉に従えば間違いないという心強さがある。仲間ではなく、主となってからは特にそう思う。


 エルは契約してセイネリアの僕となったが、彼に対して態度を変えたという事はないし、団での立場も仕事もまったく前と変わってはいない。

 言葉遣いも変えていないが……ただ、彼の事を名では呼ばなくなった。前は身内しかいない時はセイネリアと普通に呼んでいたのをやめて、どこでもマスターと呼ぶようになった。それが唯一、エルがセイネリアの部下となって変わったところかもしれない。


エルはその他の団員達の話も入ったので長くなりました。

次回はセイネリアの話。

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