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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
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68・今の立場

 ザウラ領主スローデンは急ぎの連絡を受けてすぐ部下を商人広場へと飛ばした。ザラッツからの頼み通り、指定された商人を見つけてとにかくここにとどまらせる事――その後の交渉があるから出来るだけ穏便に、とりあえずは領主が他国境の様子を聞きたいから夕飯に招きたいと言うように言ってある。


――まぁ、こんな事を他の領地の連中が聞いたら、またこちらが何か企んでいると疑われそうではあるが。


 例の騒ぎの元凶として、スローデンが隣領地を取り込もうと狙っていた……という情報は、他の領主達にも伝わっているだろう。勿論、現在のスローデンはそんな野心を抱いていないし、そもそも抱くだけの余裕がないのだが。

 現在、蛮族侵攻をうけて自領の兵力はガタ落ちだし、襲撃後の復興やら賠償金の支払いやらで金もない。ただナスロウ領が出来たおかげで領地は安全面で信用され、おまけに蛮族との交流が盛んになったため領都クバンには前以上に商人が多くやってくるようになった。当分は兵力の回復は後回しで、商人達を更に呼び込めるような政策を重視して金を稼ぐのを優先するつもりだった。

 防衛は周辺領地頼み、特にナスロウ領頼みであるから、他領地を取り込むなんて野心は完全に捨てるしかない。ナスロウ、スザーナ、グローディが親類関係を築いて繋がっている現状、少しでもそんな素振りを見せたらこちらが袋叩きにあうだけだ。

 だから近隣領地には出来るだけ協力して信頼関係を作っていく。少なくとも周辺3領地の状況が変わらない限り、協力路線で進めていくしかこの地が生き残る道はない。

 そして前回の件がある分、十分な信用を勝ち取るまではこちらは常に下手に出て相手を優先するくらいでないとならないのも分かっている。記録的には内戦扱いになっていないが、実際はこちらが仕掛けた戦に負けたのだから。


「しかもあの男のためとなれば、全力で協力するしかないだろう」


 溜息をつきつつスローデンがそう言って後ろを振り向けば、黒い髪の男が笑う。


「そうですね、あの男には貸しを作っておいた方がいいです」


 その顔をみてスローデンも笑った。


「あの男だけは二度と敵に回したくない、そう思うだろ、ジェレ」

「まったくです」


 互いに声を上げて笑ってから、スローデンは一番心が許せる部下の本来右腕がある場所を見て目を細めた。処刑の代わりに戦士としての命を取られて帰ってきた彼には利き腕である右腕がない。それは絶対に忘れてはならない、スローデンの愚かさの代償だった。






 もとはザウラの領地だったのもあって、ナスロウ領からザウラの領都クバンまでの道は整備されていて行きやすい。急げば明日には余裕でつく。


「レンファン様、準備が整いましたっ」


 部下の報告を受けてレンファンは馬に乗った。連れていく人間は4人、グローディからザウラへ行く時のように盗賊を警戒する必要はないからこの人数で十分だ。レンファンの仕事はザウラの領都クバンへ行って、例の商人を見張る事である。夜中にこっそりいなくなったり等、向こうがへんな気を起こさないように、そんな事を考えたら分かるようにレンファンが行く事になった。

 アジェリアンの仲間達は現在ナスロウの屋敷ではなくワーゼン砦の方にいるから、ついてきて貰う連中はレンファンが適当に選んだ。一人で行く方が一番身軽で早く行けるが、流石に今のレンファンの立場からしてそれは出来ない。それに商人というか隊商を無理やり止める事態になったら一人は厳しい。現段階では例の商人の足止めはザウラ卿がやってくれているから急ぐのが最優先という程でもないし、この人数がいい落としどころだろう。


「あ、レンファン様、先頭は私がっ」


 一人の兵がそう言って馬を並べて来たので、レンファンは笑って答えた。


「いや、何かありそうな時真っ先に分かる私が先頭の方がいいだろう。問題が起こりそうだったら呼ぶ」

「あ……はい、そうですね、分かりましたっ」


 レンファンの能力はナスロウ領の兵士達ならほぼ全員が知っている。その戦闘スタイルに興味をもってよく手合わせも頼まれる。レンファンが少し前の未来が見えると分かっているからこそ、レンファンが唐突に何か言っても意見を信用してしたがってくれる。能力を疑ったり、馬鹿にするような人間はない。


――まったく、少し前からは考えられなかった立場だな。


 兵士達からは尊敬の目で見られ、信頼して頼ってくれる聡明な主は女性同士というだけあって親友のような関係でもある。考えれば考える程恵まれていて、今の地位にレンファンは満足をしていた。

 全てあの男にあってから、自分の人生の道が切り替わったのだとレンファンは思っている。


ジェレが処刑にならないよう、ヨヨ・ミが部族会議で訴えました。


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