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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
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59・もういいのか?

「どうかしたのですか?」


 ラスハルカの声が聞こえてセイネリアの思考は急に現実に戻った。どうやらいつの間にか自分は立ち止まっていたらしく、後ろからついてきていたラスハルカが追いついてきたらしい。


「いや……なんでもない」


 そう言ってまた歩きだす。だがふと思いついて、横を歩いているアルワナ神官に聞いてみた。


「王の記憶では、ギネルセラはどう見えていた? 疑う程怪しい言動をしていたのか?」

「それは……」


 彼は考えているのか沈黙を返し……暫くしてから答えてきた。


「王にとっては……気味が悪いほど自分の言う事を聞いて欲がなさすぎるのが不気味だったようです。あとはやはりその圧倒的な魔力、黒の剣の力が王にとっては脅威だったと……それが拗れて疑っていった感じでしょうか」


 実のところ、これだけの話を聞いていてもなお、セイネリアはギネルセラという人間を掴めていなかった。騎士の過去から見た姿――特に大陸統一後は割合穏やかな人間に見えていたが、自分を認めさせるために世界の魔法を独占しようとした執念を考えれば、少なくとも穏やかな人間だとは思えない。王も彼の野心に共感して協力したからこそ、彼の願いが叶った後の無欲さが不気味だったのかもしれない。


「なら王は、騎士が裏切る事は考えなかったのか?」

「……そうですね、なかったようです。だからこそ、最後の最後に裏切られた……いえ、見捨てられた事が許せなかったのかもしれませんね」


 その言葉でまた騎士の中の後悔が膨れ上がったが、そこは後悔するところではないだろうとセイネリアは思う。


――裏切るような人間は、いつか別の誰かに裏切られるものだ。少なくとも王には、あんたを責める権利はないな。


 騎士が後悔をするのは分かるが、王の期待を裏切った事を後悔するのはセイネリアには分からない。……まぁそれでも後悔してしまうのが騎士の王に対する『情』なのかもしれないが。


「ちなみに、お前の中に入ってきた時、王は正気だったのか?」

「正気というか……死んでから時間が経っていますから、強く思っている事しか覚えていない状態です」

「あぁ、そうだったな。それで、あの後死者としての王はどうしたか分かるか? 消えたのか?」

「おそらくは。私が気が付いた時にはもう城の外でしたが……それでも王と、その部下達の気配が無くなっていたのは分かりました」


 なら解放されて良かったじゃないか、としか思えない。憎しみと欲だけ抱えてただ存在するだけならさっさと消えた方が良かっただろう。

 そうして長い廊下の終わり、先ほどの部屋が見えてくると、セイネリアは騎士に問いかけた。


――まだ何か俺に言っておくことはあるか?


『いや……もういい』


 沈んだ声は、王の最期に対しての彼の感情故か、どちらにしろ彼との会話もこれで終わりだ。自分としては一応彼に勝った事である程度は吹っ切れたが、大きな成果があったとも言えない。記憶を消した後の自分に伝えてもらう程の重要な情報もほぼないと言える。予想だけならいろいろ思いつくだけの事はあったが、記憶を消した後の自分でも十分思いつくだろう程度の事ばかりだ。

 廊下はそこで終わりとなり、部屋に入るとすぐ、ケサランが近づいてきた。


「もういいのか?」


 彼はどこか心配そうに、こちらの顔を下から覗き込んでくる。


「あぁ、さっさと終わらせてくれていいぞ」

「さっさとって……こっちも準備があるんだが」

「なんだ、まだ準備してなかったのか?」

「お前がいなきゃ準備も出来ないだろうがっ」


 相変わらず自分に対して本気で怒る魔法使いに思わず笑ってしまってから、セイネリアは部屋の中、台が並んでいる方に向かう。その傍にはアルワナ司祭の双子が並んで立っていて、緩い笑みを浮かべながらこちらを見ていた。


「あんた達は見てるだけか?」


 聞いてみれば、兄である最高司祭の方が口を開いた。


「はい、後は魔法使いの仕事ですので」


 にこにことやけに嬉しそうに言ってくる彼らは、仲が良さそうに手まで繋いでいる。セイネリアは兄弟というものを知らないからよくわからないが、エルの事から考えても、強い情による繋がりがあるものなのだろう。


次回はセイネリアへの記憶操作、ですが……。

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