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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
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58・望まない

『お前、俺の事を嫌って……憎んでもいただろうに、何故俺のために剣を振ってくれたんだ?』


 誰もいない神殿の中を歩きだせば、また騎士が語り掛けてきた。正直もう話す事はないだろうと思っていたが、騎士も向こうの部屋に戻ったらすぐ別れる事になると分かっている分、言える事は言っておきたいのだろう。


――別にあんたのためじゃない。体が固まっていたから少し解しておこうと思っただけだ。


 そう返したが、それだけではない事をセイネリアも自覚はしている。勿論騎士にも分かっているだろう。

 どうやら自分は爺さん相手にはいろいろ余計な事をしてしまうらしい。別に老人を敬っているつもりはないが、今までセイネリアは自分の人生の分岐点で老人の世話になってしまった事が何度もあった。それを返し切れていないという思いが引っかかって……負い目を感じている訳ではないが、先にやっておける事はやっておくかと思う感じだ。


『お前は案外義理堅いのだな』


 自分としては、単に貸しを作るのが嫌なだけだろうと思うところだが。


『そう思ったほうが、お前にとっては受け入れやすいだけだろ』


 それを否定まではしない。ただ肯定もしない。

 自分は情では動かず、損得勘定や理屈で動いている人間だと思っていたが、どうやらそうとも言い切れないと最近気づいた。別に情がまったくないとは思っていなかったが、思った以上に自分は感情で判断しているのを自覚した。


『だがまぁ安心しろ、お前は情だけでは動かないのは確かだ。だからこそこの剣を持っていられる。奴の狂気に影響されずに済んでいる』


 そういえば最初に剣を手にした時、ギネルセラの狂気に取り込まれなかった理由として、セイネリアの中に強い憎悪も欲もないからだと言われた。あとはそのまま剣に何も望まないでいれば取り込まれることはないとも。


『剣に何も望まない、か……』


 その時の騎士の感情が、明らかに自分の知らない事を聞いた時のものだったからセイネリアは聞き返した。


――俺はあんたから聞いたぞ。剣を手に取った時、そのまま剣に何も望むなと。あんたは剣の主になった者にそれを伝えようと考えていたんじゃないのか?


『生憎俺は自我を忘れていた時の事は朧気にしか覚えていなくてな。お前が剣の主となった時も……お前を選んだ事以外は正直あまり覚えていない』


 となれば、あの時セイネリアに声を掛けてきたのは誰なのか。あれが騎士の発言なら騎士が知らない情報をこちらに教える筈がない。それに声は確かに今聞こえている騎士の声ではあったがあの時とは口調が違う。

 どうやら自分は騎士自身がそうだろうという予想で言った言葉を鵜呑みにし過ぎたらしい、とそう思えば根本的な疑問が湧く。


――ギネルセラは本当に狂っているのか?


 ここまでそれは間違いないと思っていたが、あの時話しかけてきたのが騎士でないならあとはギネルセラしかいない事になる。

 ケサランは、ギネルセラが名を分かっているなら本人の意識があってもいい筈だと言っていた。だがセイネリアはギネルセラから明確な意志を感じた事はなかった。自分の中の遠いところで他者の感情として存在を感じた事はあるが、彼の考えを感じた事はないし、当然彼から話しかけられたことはない。

 それに実際、ギネルセラの狂気は存在する。それはセイネリアも感じている。


『ギネルセラは狂っている。だから認められていない者が剣を持つと奴の狂気に取り込まれる。俺はまだ自我がある内に何度もあいつに呼びかけたが、あいつが俺の前から消えた後は一度も返事が返ってきたことはなかったし、憎しみと狂気以外を感じられた事はなかった』


 ギネルセラは狂っている……だが、正気が残っている可能性も完全否定しない方がいいのではないか。あとセイネリアとして引っかかるものがあるとすれば、ギネルセラは時間をかけて自然と狂っていったのではなく、憎しみだけの存在になると宣言して自ら狂ったという事くらいだ。


『だから狂う前に、その後の事を準備しておいた可能性はある』


 だがあらかじめ仕掛けておいた事が自動で実行されたにしては、不自然さがなさすぎではないだろうか。剣を手に取った時の声は、明らかにセイネリアの思考を読んでそれに対して話しかけてきていた。騎士が自我がなくなるまでの間で幾通りも考えていた会話パターンから当てはまるものが自動的に使われた……というのはまだどうにかあり得そうな気がして納得してしまったが、それなら騎士が知らない事を言うのはおかしい、となる。


『少なくとも、俺はあれからギネルセラの意志を感じてはいない』


 セイネリアの考えを否定するように騎士が言ってくる。彼はギネルセラに正気が残っているとは思っていない。長く剣の中で共にいた相手の事であるから、騎士もそれには自信があるのだろう。


会話シーンが続くのは申し訳ないのですが……。

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