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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
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56・問いかけ3

『だがお前も、最終的には負けた相手はいないのではないか?』


 騎士が皮肉を込めてそう言ってきた。それもほとんど間違ってはいない、とはいえ。


――あんたみたいに常に勝ち続けた訳じゃない。


 そう返せば騎士は笑う。

 セイネリアは負けた事はあるが、基本はその後に勝っている。ただ……明らかに敵わないと思ったままそれきりで終わってしまった人間もいる。ナスロウ卿だけだけには、いわゆる勝ち逃げをされてしまったと今も思っている。


『お前の師は、俺より強かったと思うか?』


 それは分からない。あの当時のセイネリアはまだ技能面はかなり未熟であったし、記憶が薄れていけば思い出補正で実際より強かったように思ってしまう事もある。だが、勝ち逃げをされたせいで、いつまでもあのジジイには勝てない、彼より自分は下だという思いが残ってしまったのは否めない。


『成程、それが潔く死を受け入れた者の利点か』


 確かに死んだ勇者は実際の功績よりも盛られて神格化されるものだ。騎士も彼の国が存続して行ったのなら、そうなっていたのは確実だろう。

 ただ、その可能性については……そこまで考えて、その先の答えを騎士が察する前に、セイネリアは彼に言った。


――あんたは自分の選択を後悔しているが、あんたが何を選択したとしても結局国は滅んだと思うぞ。


 騎士は何も返して来なかった。

 だが彼も、こうして正気になって当時の事を冷静に見れるようになれば、それを察していてもおかしくはない。


 どちらにしろ、あの時点で騎士の命はどの道もう長くなかった。更に言えば、あの体の騎士では国の運命を変えられるような何かが出来たとも思えない。王は既に疑心暗鬼に取りつかれ、ギネルセラを排除する以外の選択肢は取れなかった。ギネルセラがいなければ黒の剣は使えない。騎士も死に、黒の剣の恐怖もなければ、あの王に反発する者は必ず出る。国は内乱でつぶれるだろう。もしくはギネルセラが上手く王から逃げ延びられたなら、彼は自分の身を守るため、裏切った王へ復讐するため、剣の力で国を滅ぼしたかもしれない。

 また逆に騎士が予定通り王を剣の主にしたとしても、誰も抑え役がいない状態であの王が強大な力を持てばとんでもない独裁政治が始まって、最期は王が暗殺されるか王自身が国民を殺しまくる結果になっただろう。


 結局あの国はギネルセラの魔力、聡明な王、抑え役である騎士の名声で成り立っていた。どれかが欠ければ無理やり力で統一した国がそのままを保っている事は難しい。

 3人がそれぞれの役目を果たせなくなった時点で、破滅は必至だったろう。


 そこで、そこまで黙っていた騎士がやっと反応した。


『だから、俺の後悔は意味がないとでもいうのか? 俺の罪が大したことがないとでもいいたいのか?』


 いや、そんなことは思っていない。ただ、国は滅ぶべくして滅びた。大きな流れは騎士一人の選択で止められるものではなかった。


――あんた一人が間違えなければ国が救えたなどと己惚れるなという事さ。


 セイネリアは何かを掴もうとする時は、自分の力で勝ち取る事にこだわってきた。ただ自分の力でなんでも出来ると思っていた訳ではない。いや、最初はそう思っていたところもあったが、他人が関わる事であるなら、自分一人の力でその他人の運命全てが決まるものではないし、決めていいものではないと思った。それは欲しいものがあるなら自分の力でどうにかしろというのを他人にも求めているという事でもあるが。

 だから今までセイネリアが助けてやったように見えた者達の場合も、最終的には本人が動いた事で望みを叶えている筈だ。

 同じようにギネルセラを助けたかったのなら、ギネルセラ本人が王から逃げるなり、剣を使えなくするなりの行動にでなければならなかった。ギネルセラが王を信じようとした故に最悪の結果になったのだ。

 国が最終的に滅びた原因も、王がおかしくなっていったのにそれを止められなかった部下達や国民のせいでもあると言える。

 個人が他人の運命全ての責任を持つ必要などない。自分の責任を他人に全て投げるなら何があっても文句をいう権利はないのだ。

 そこで自嘲するような感情が流れてきて、騎士が静かに言ってくる。


『……そうか。だからお前は王になろうなどと思わないんだな』


「あぁ……そうだな」


 それは思わず声に出る。その言葉に込められたセイネリアの考えを全て読み取って、騎士は言った。


『お前には礼を言う。だからいつかお前に恩を返してやる』


 期待していない、と即座に返せば騎士は笑う。

 だがそこでセイネリアは、人の気配に気づいて神殿の方へと振り返った。


もう一人やってきますが、騎士とのやりとりももうちょいあります。


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