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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
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55・問いかけ2

 最後は少しだけ息が上がっていたが、それもすぐに収まっていく。汗は出ていたようでそれが風で冷えていく感覚が心地よい。

 今のセイネリアの体でも、疲労や心拍が上がるような、体にとっては緊急ではない不具合はすぐに治りはしない。だからこうして負荷の大きい運動をすれば、多少は疲労感や息の上がる感覚は味わえる。


――あんたも、少しは楽しめたろ。


 そう考えれば、剣を振っている間何も言わなかった騎士から返事が返ってくる。


『あぁ、礼を言う』


 騎士の声が震えて聞こえた。というか剣を振っている間中、彼は泣く程の喜びを感じていたのがセイネリアには分かっていた。

 今の騎士ならば、セイネリアの感覚を共有してそれをはっきり感じる事が出来る筈だった。精神の世界で剣を自由に振れたとはいえ、それは所詮本当に剣を振っているのではない。イメージの世界であるからおそらくは昔剣を振っていたその感覚を感じていたのだろうと思われる。

 だから本当に今、セイネリアが剣を振るその現実の感覚を感じさせてやったという訳だ。


『いい事を教えてやる。単純な力だけならお前の方が上だ』


 確かにそれはいい事を聞いた、とセイネリアは皮肉げに笑った。ただそれでも、もし本当に全盛期の騎士と戦えば勝てない可能性は高いとは思っている。


『そうだな、お前の動きでは俺に剣を当てられないし、俺の攻撃を防ぎきれない』


 それは今、彼の技能を受け継いだからこそ分かっている。だが100回やれば1回くらいは勝てる可能性はある気もしていた。


『その根拠は何だ?』


 それは騎士が常に一番強かったからこその問題だ。


『俺の驕りが弱点か?』


 いや、少し違う。あの世界では、魔法を使わず肉体と剣技だけで戦う事に関して、騎士ラーディアは第一人者であり、常に最強の座にあって同じスタイルで戦う者に負けた事がない。つまり、純粋な肉体と剣技での戦いで自分より強い人間と戦った事がないという事だ。


『なるほど、それは確かにな』


 騎士がそれまでにない魔法を使わない戦い方を築いていった本人であるからこそ、その時代はまだその戦い方のバリエーションは少ない筈だ。現代の魔法を使わない方が基本の剣技は騎士の知らない動きもある。ただ勿論、突飛な動きをすればそれが通じるというものではない。なにせ基本を自力で作った人間であるから、そこに通じる根本部分は全て見通せるのだ。


『その通りだ、だが……確かに、今の剣技は俺とは別に進化してきた部分もあるのだろう』


 どちらにしろ『強い人間と戦った経験』は騎士よりもセイネリアの方が上だと言える。その経験の差で勝てる可能性もあるかもしれないという事だ。あくまで可能性だけの話だが。


『あぁ、可能性はあるだろうな』


 その時の騎士の感情は、寂しさ半分、悔しさ半分と言ったところか。ただそれは、自分が負ける可能性に対しての感情というより、今の自分にはそれを実際戦って経験することは出来ないのだろうという事に対しての部分が大きいらしい。


『それは、お前にとっての「希望」でもあるんだろ』


 そう、騎士が負ける可能性は、今のセイネリアが負ける可能性でもある。『最強』が完全でも完璧でもないという事でもある。……そう思い込まないとやってられないというのもあるが、騎士の意識がはっきりしている現状では彼の記憶が思い出し易くて、それを見て彼を分析してみて改めて思った事でもある。

 最強であるこの騎士は、勝ちだしてから負けていない。苦戦はした事があっても、勝てないかもしれない戦いをしたことがないのだ。だからこそ、精神だけでも戦えた事に単純に喜べた、あれを強敵との戦いなどと言えた。そしてセイネリアの『もっと楽しい戦いを知っている』という言葉に動揺し、羨んだ。

 生き残れたなら敗北というのは学ぶことが多い、技能面でも、精神面でも。逆に勝利にはあまり学ぶモノはない。勿論、勝ち続ける間に動きは洗練され、鍛錬によって肉体は強化されていっただろうが、勝ち続けたが故に騎士は自分より強い相手への対処方法を知らない。

 だからおそらく、騎士の知識でさえ『想定外』となる動きをする相手がいるなら対応出来ないかもしれない、とその分を入れた可能性だ。



騎士とのやりとりは次までかと。

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