表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
1068/1189

54・問いかけ1

 アルワナ大神殿は傍に民家なんてない山の中であるから、外にいけば当然森のような風景があるだけで人一人として見当たらない。ついでに言うと例によって神殿の者は自分達がいる周辺へは近づかないように言ってあるらしく、外へ行くまでセイネリアは誰にも会わなかった。

 神殿周りは庭という程広い訳ではないが、鍛錬として剣を振る程度は問題ないくらいにならしてある土地はある。普通なら入口前なんて目立つところでやるものじゃないが、人払いをしてあるなら問題ない。

 腰にある剣を抜いて、軽く慣らして振ってから、セイネリアは思考だけで呼びかけた。


――おい、まだちゃんと正気でいるんだろ?


 相手は当然騎士ラーディアだ。セイネリアがその名を知っている限りは、彼は正気でいる筈だった。自分の中で迷うような他者の感情を感じて、それから頭の中に声が返ってきた。


『なんだ、もう話す事はないと思ったが』


 騎士はセイネリアの記憶も共有している筈だから、この後記憶操作を受けて名を忘れる予定であることも分かっているのだろう。だからもう大人しく消えるつもりで何も言ってこなかったのだと思われる。


『そうだな、言いたい事は言ったし、それなりに満足したからな』


 どうやらわざわざ呼びかけなくてもセイネリアが考えた時点で向こうには伝わってしまうらしい。確かにこのままで今後ずっと過ごすのは面倒だろうなとセイネリアは思う。


『だから、ケサランとかいう魔法使いは、お前から俺の名の記憶を消す事にしたんだろう』


 あの魔法使いに関しては、どうしてそこまで自分の事を考えてくれるのかと思う時はあるが、彼のこちらに対する感情は分かりやすくて悪意のようなものは感じない。勿論隠している事があるのは分かるが、それでも彼がギルドの意図を無視してでもセイネリアのために動いてくれているというのは信じられる。

 彼の能力的に自分に信じ込ませるようにふるまっている――という可能性も考えた事はあるが、セイネリアは人を見る時の自分の直感を信じていた。


『そうだな、俺もあの魔法使いはお前を本心から心配していたと思うぞ』


 肯定された事で少し安堵した自分に呆れて、セイネリアは軽く笑うと剣を持ったまま両手を頭の右上まで上げて構えた。剣先を前に向けて、ぐっと手に力を入れて腰を落とす。騎士は何も言わなかったが、彼の感情が震えたのは分かった。

 一歩踏み出すと同時に剣を振り落とせば、ぶん、と斬られた空気が鳴る。剣先を止めずにそのまま切り返して、今度は腕を頭の左上に上げて構える。


『基本だな。だが、力強い』


 思わずもれた騎士の言葉に、セイネリアは笑みを浮かべた。

 そこからまた踏み出して剣を振り落とす。今度は落とした剣先をそのまま上に振り上げ、振り上げ切ったところから剣先で半円を描いて横に薙ぎ払う。一歩引いて構えなおし、今度は前に突き出す。すぐ引いて下から上に斬り上げる、そのまま剣先を下へ向けてまた切り返して斜め上へと上げる。剣先で8の字を書くように剣先を数度回して後ろへ下がり、そこからまた突く。

 ただの体をほぐすための鍛錬であるから、仮想敵も想定せず、単に気分のまま剣を動かしているだけだ。

 振った後の反動を逸らして別の方向に切り替える、その重さを楽しむ。だからわざと無理な方向へ剣の軌道を変え、腕と手首に負荷をかける。とはいえ軌道が完全に切り替われば負荷は消えて剣の重さで振り切れる。力を入れて振れば振る程剣の速度はあがって切り返す時の腕の負荷は重くなる。だがそれこそが楽しい。

 今の自分は敵に対しては落胆しか感じられないが、こうしてただ体の負荷を楽しむ事は出来る。出来るだけ剣を止めないように切り返して行けば更に剣速は上がって切り返すのが難しくなる、空気を斬る音が大きくなる。

 そこで最後に大きく一歩前に出ると同時に突く。そこでピタリと剣先を止めてからセイネリアは前に出した足を戻した。


次回は騎士とセイネリアの会話

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ