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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
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49・騎士の名8

「お前は俺を断罪しに来たのか?」


 呟くようにそう聞いてきた騎士は、こちらを見てはいなかった。


「いや、結果としてそうなったが、単に俺はあんたに勝ちたかっただけだ」


 すると騎士は少し驚いた顔でこちらを見あげてきた。


「俺はな、勝手に不老不死にされた上にあんたの技術を押し付けられた事にクソムカついてたんだ。特にあんたから与えられただけの力で勝手に強くなったというのが気に入らなかった。だからせめてそれを勝ち取った事にしたかったのさ」


 セイネリアの言葉に騎士はあっけにとられたように目を丸くしていた。その様をふん、と鼻で笑ってみせてから、セイネリアは一応聞いてみた。


「どうせ俺に渡したものをなかった事にしろ、は出来ないんだろ?」


 騎士はまだ目を丸くしていたが、それを聞かれると表情を曇らせて目を伏せた。


「あ……あぁ、そうだな。俺は願っていただけで直接お前に何かをした訳ではないから……それを止める方法も、剣の主である事を解除する方法も……分からないんだ、すまない……」


 騎士の技術はともかくセイネリアの不老不死は、騎士が願っていた事が剣の主と決めた人間に実現されただけ――という話を聞いた段階で、騎士の意志でこれがどうにかなるものではないというのは想像出来た。また騎士は長い時の中で自我を失っていたのに、剣の主を決めた時には彼が考えていた通りの言葉がセイネリアに投げられ、そうして騎士の過去を夢というカタチで伝えてきた。ならそれは騎士の願いをギネルセラが叶えてやったのではないかと考えられる。つまり剣の主を決めるトリガーだけは騎士に任せたが剣自体の主導権を持っているのはギネルセラで、彼は狂っているといっても意志もどこかに残っているのではないだろうか。現状ではそれを確認する手段はないが、名前を分かっているなら自分が何者か分かる事が多い……というのならその可能性は高いだろうとセイネリアは思っている。ギネルセラと話す手段を探すのもありかもしれない。

 考えて、思わずため息が漏れてしまったが、セイネリアは皮肉げな笑みを浮かべて騎士に続きの言葉を告げた。


「だからせめてあんたに勝っておきたかった。あんたから上から目線で力を与えてやったと言わせないためにな」


 騎士はまた目を丸くしてぽかんとした顔をしていたが、暫くして唐突に声を上げて笑い出した。それは戦っていた時とは違って力の抜けた楽しそうな笑い声だった。


「なんだそれは……つまりお前は、自分を納得させるために俺に勝ちたかったのか?」

「そうだ。あとはついでにあんた自身にもムカついていたから言いたい事をいわせてもらった。おかげで大分気が済んだ」


 『与えられただけ』を『勝ち取った』という事にする――本当にただの自己満足だが、それならまだ自分的に納得が出来るとセイネリアは思った。自分でも馬鹿馬鹿しいとは思っているが、それでどうにか自分の中でけじめをつける事が出来るだろうと思った。

 騎士は呆れた空気でこちらを見ていたが、何かに気づいたのか少し不機嫌そうに聞いてくる。


「だが、お前が言ってきた言葉のせいで俺は動揺した。……自分の力で勝ち取った形にしたかったと言うなら、それは卑怯ではないのか?」


 セイネリアはそれにさも当然のように答えた。


「別に、あのままマトモにやっていても俺が勝ったぞ。だが時間が掛かる、無駄に長引かせずさっさと終わらせるためにあんたを動揺させただけだ」


 騎士は更に不機嫌そうに顔を顰めた。


「随分な自信だな」


 彼が不機嫌になるのは当然だろう。なにせ騎士としては本当の実力ならセイネリアに負ける筈がないと思っているだろうから。今のは別に騎士を煽るつもりでいった言葉ではないから、彼のために少しのフォローをしてやる。


「そうだな……全盛期のあんたと現実に剣を合わせて戦うのだったら、正直あんたに勝てる自信はそこまでない。だが、勝つという意志だけの勝負なら負ける気はしなかった」

「それは、何故だ?」


 確実に技術は騎士の方が上なのはセイネリアだって分かっている。体力と力だけはそれでも勝てると思ってはいるが、だからといっていつものように力押しと相手の体力切れ狙いでどうにかなる程度の技術差の相手ではない事も分かっている。

 けれども精神だけの戦いなら話は別だ。

 精神が繋がっているセイネリアと騎士の間では相手の意図を読もうとしなくても相手が何をしようとしているのか分かってしまっていた。更に言えば精神の世界では腕力も意味をなさないが、細かい技術や、相手の動きを読む力も意味がない。なにせ相手を斬っても勝てないのだ、駆け引きも読みも必要ない。ただ意志の強さの差で勝敗が決まるのならセイネリアは最初から勝てる自信があった。


「今のあんたには勝ったところで後に何もない。もし俺に勝てたとして、あんたを待つ者も、あんたが守ろうとした者もあんたにはない。今のあんたは戦う事への執着はあっても勝ちに執着する理由がないんだ。だから俺が負ける筈はないという訳だ」


長いですが、あと、1,2話で騎士とのやりとりは終わるかと。


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